瑞樹の高校は、専任の学校司書がいないため、司書教諭が図書室を取り仕切っている。だが、忙しい教職や部活の顧問との並行だ。当然ながら、図書室の作業に使える時間は多くなく、先生は新しく購入した本の登録作業もままならない状況だった。
 疲れ切った顔で図書室の仕事をする先生。その様子を図書委員の仕事をしながら見ていた瑞樹は、黙っていることができず――

『先生、新しく買った本ってパソコンでシステムに登録して、バーコードシールとかを貼るんですよね。やり方、教えてください。そうしたら、お手伝いできますから』

 と、登録作業の代行を申し出たのだ。
 自分が手伝うことで先生の負担を減らすことができれば、と思ったのである。

 ただ、瑞樹の図書室と図書委員会に対する貢献(こうけん)は、これで終わらなかった。

 登録作業の代行を引き受けて以来、瑞樹はカウンター当番以外の日も、図書室で過ごすことが多くなった。
 そうやって図書室に入り(びた)っていたことで、瑞樹はさらに気が付いたのだ。

 瑞樹自身もそうだが、図書室はいつも多くの生徒が訪れるので、カウンター当番の図書委員は常に忙しい。カウンター対応や書架整理、返ってきた本の戻し作業に追われている。そうすると、壊れた本の修理などの細々(こまごま)したところで、手の行き届かない部分が出てくる、ということに――。

 そこで瑞樹は――
『先生、本の修理の仕方を教えてください。あと、背ラベルがはがれた本も、貼り直しておいていいですか?』

 と、〝手の行き届かない部分〟にも、自ら手を出し始めた。

 そして、でき上がったのが今のひとり裏方作業の体制である。

 もちろん、本来なら瑞樹がひとりでここまで仕事を背負い込む必要なんて、どこにもない。事実、司書教諭も感謝以上に瑞樹のがんばりすぎを心配していた。

 それでも瑞樹がこの仕事を進んでやっているのは、二年前に(ちか)った〝亡くなった母に(ほこ)れる生き方〟を実践したいからだ。

 実際、瑞樹は本が特別好きであったり、図書室に特別な思い入れがあったりするわけではない。図書委員になったのだって、くじ引きの結果だ。それでも、自分なら現状を少しでも好転させられるかもしれない、と思ったら、どうしてもやらずにはいられなかった。

 要するに、自分の信念に対してどこまでもまっすぐなのだ。……まあ、まっすぐすぎて、少し融通(ゆうづう)が利かないとも言えるが。

 ちなみにこの書庫は、静かに落ち着いて作業できる環境を望んだ瑞樹のために、先生が貸し与えてくれたスペースだ。ついでに、瑞樹は毎日のように裏方仕事をしているので、カウンター当番も免除(めんじょ)されている。人と接するのが苦手な瑞樹としては、何気にありがたい気遣いだった。

 まあ、理由やら何やらはともかく、パソコンが起動したところで、早速瑞樹は最初の本のタイトルを入力しようと――

「へえ。書庫の中って、こうなってるんだ」

 ――したところで突然の声に驚き、椅子からずり落ちそうになった。