教室にキーンコーンカーンコーンとチャイムの音が鳴り響く。
 ホームルームが終わって放課後となり、瑞樹は「ふう……」と息をついた。期末テストが来週に迫っているから、授業中はまったく気を抜けない。

「おーい、秋山(あきやま)君。明日の日直、よろしくね」

「――ッ! ……あ、はい。ありがとうございます」

 前の出席番号の女子からおっかなびっくり日誌を受け取り、自分の机の中に放り込む。どうにか耐えたが、不意打ちで女子から話しかけられたので、驚きすぎて(こし)を抜かすところだった。……我ながら、情けない。

 ともあれ、雑談をしながら帰っていくクラスメイトにひっそり交じり、瑞樹も教室をあとにした。
 ただ、昇降口に向かう人の波から、瑞樹はひとり外れていく。

「失礼します。書庫の(かぎ)、借りていきます」

 職員室に入った瑞樹は、近くの先生に声をかけながら鍵を手に取り、ホワイトボードの書庫の(らん)に名前を書く。
 いつものことなので、もはや慣れ切った手順だ。

 鍵を手にした瑞樹は、来た時と別の廊下を進む。見えてきたのは図書室だ。しかし、図書室には入らず、そこから角を曲がって突き当たりにある部屋の前で立ち止まった。

 テスト勉強に来る生徒で(にぎ)わう図書室前と違い、ここは人通りがまったくない。角ひとつ曲がっただけで、まるで別世界のようだ。

 鍵で扉を開け、明かりをつけながら部屋に入る。部屋に入った瞬間、ほこりっぽい空気で鼻がツンとした。
 明かりで照らされた部屋の中は、所狭しと棚が並び、たくさんの本が収められている。

 ここは、図書室に収まり切らない本を入れておくための書庫だ。と言っても、この部屋にあるのは誰も使わなくなったような古い本ばかりだが……。
 おかげで、この部屋に立ち入る者なんて、瑞樹は自分以外に見たことがない。

 書架(しょか)の間を抜けて、部屋の奥へと進む。すると、書架が途切れて、部屋の片隅(かたすみ)に四人掛けの机と椅子(いす)が姿を現した。
 ちなみに、机の(かたわ)らには、本を積んだカート――ブックトラックも置いてある。

 瑞樹は椅子のひとつに荷物を置くと、机の上のノートパソコンとプリンターの電源を入れた。

「さてと、昨日の続き、やっちゃうか」

 肩をグルグルと回し、瑞樹はブックトラックから本を何冊か下ろして、ノートパソコンの隣に積んだ。

 人も通わない名ばかりの書庫で、瑞樹が何をやっているのか――。
 答えは、図書室の裏方作業だ。

 新しく購入した本を貸出できるようにするための準備。壊れた本の修理や背ラベルの貼り直しなどの雑事。その他もろもろ。これらを、瑞樹はほぼひとりで受け持っているのである。

 瑞樹が裏方作業を行うようになったのは、ちょうど一年くらい前のこと。司書教諭の仕事の手伝いを買って出たのが始まりだった。