「自分だって逃げてばかりのくせに」
言うなあ、と思った。
「けじめをつけるのがそんなに怖いですか」
怖いと、頷いた。悟られるのだけはごめんで、代わりに苦笑いしてみた。
曇天の合間から少しの陽が射したのを見上げて、まだ終わらない時期をたまに鑑みるのも悪くないと思う。
ひぃはわたしに言ったのではなかった。
おそらく自分自身に問うたのだ。でなければどうして意味もなく雨に打たれて、来る見込みもない誰かを待って濡れるのか。
彼なりの反省の意なのだろうかと、やんわり勝手に噛み締めてから泣きそうになったのは秘密だ。
「旱」
旱だからひぃくんだ、ひぃちゃんだ、ひぃだと、顔のいい彼を多くはそう許容した。夏、窓から教室に乱反射する光を受けてそれでもにこりとも笑わない旱を、捨て置けなかったのは多分。
振り向かない翡翠色にきっと焦がれていたからだ。
なのに、空から降り頻る雨は微弱なばかりで。
「…これ旱が?」
「いや、僕こんな控えめなことしないです」
泣き止まない空をただ尊んでいた。
「秋雨ですね」