『あんた、髪超赤いのな』
唯一、茅野だけを除いて。
やつは自分の登場に対し嫌な顔一つするどころか、難無く受け入れた。プライドや強がりと呼ぶにはあまりに自然体過ぎるもんだから、それが功を奏してと言うべきか、かろうじて呼吸をする場所を得たと言っても過言ではない。
それから毎日そばにいた。他愛ないやり取りも、終わりに向かう日常とて、お互い捨てきれずに抱きしめて歩いた。
そんなことをやつは、片時でも思っただろうか。
今こうして柄にもなく感慨に耽っている自分を目の当たりにしたとき、茅野は杏子みたく一人静かに泣いただろうか。
(まぁ泣かないわな)
薄情な男だからな、と人気がないのをいいことに無造作に煙草を咥えた。見当たらない火を探してジャージのポケットを弄っていた時だ。
昇降口を出た大木の足元に、細身の青二才の姿があった。しとしとと、雨に降られて曇天を見上げる様は、どこか神秘的で危うい。
「ひぃ」
「、先輩」
「なにやってんの」
「日光浴」
「今曇り」
空を指差して言えば、真顔でべって舌を出された。
自分より遥かに世界を知っているひぃは何故か「先輩」と名を呼ぶ。どこかあどけなさの残る顔立ちに年齢はわからないけれど、多分後輩で年下なんだとは思う。
全身びしょ濡れでまた雨空を見上げるから、屋根の下で煙草を咥えたままそれを上下に唇で動かした。
「あんま吸ってると溶けますよ、脳味噌」
「よっけーいなお世話」
「もう溶けてますもんね」
「雨に降られてる今のおまえに言われたかないやい」
「探してましたよさっき。茅野先輩」
「奇遇。こっちも伝書鳩、杏子がひぃに逢いたがってた。最期はひぃがいいんだってさ」
「あの人は身勝手だ」
「だから喧嘩したの?仲直りしなよ」
「同じ穴の狢でしょ」