「お前のそばにいられないよ」


 どうしようもない決定事項に心が震えて、暮れる太陽を睨んだ。あの日が沈んでまた、明日の朝何事もなかったみたいに夏が始まらないだろうか。油蝉が鳴いて、杏子の美味しい時期になって、夕立が焼け付くコンクリートにペトリコールをもたらせばいい。

 それはとても幸せなことのように思えたのに、自分を好んで立ち上がった全部を裏切る行為でしかない。






 塞ぎ込んで座っていたら、拳二つか三つ分空けて隣に茅野が座った。

 ささやかで真っ直ぐで淀みなくて薄情な青みは、私の赤さに吸い込まれていずれ空に浮かぶ紫になる。


 それは今日がもう、終わるということ。



「…今日、お前のこと探してる最中。俺一人で焦ってた」

「…」

「もう今日で最期なのに、なんでうっかりあんなことしたんだーって後悔と自責の念。このままひとりで終わんのもいいかなって思った、でもその前にやっぱ、かっこ悪くてもいいから伝えたかったんだ」

「…」


「…俺、秋尾のことわりと好きだったよ」



 呆然と、ひとりごとのように、うわごとのように、言わなくても伝わっていたことを改めて言葉にしやがった。


「…わりとってなんだよ」

「わりとはわりとですわ」


 泣いてやるもんかと気を紛らわすために震える手付きでポケットを弄ったのに、咥えた煙草に点ける火がなくて、吐き出した息は震えた。

 ぽんと頭に置かれた手のひらの暖かさに、ここに今あるその温もりに、


 笑って「そんじゃな」って私を置いてけぼりにする茅野に、唇を噛み締める。