杏子は旱に想いを伝えられただろうか。

 旱は秋雨に濡れて誰を待っていたんだろうか。

 倒れた蜩は最期に何を見ただろうか。


 その全ては私を憎んだろうか。
 それで愛されたいなんてのは出過ぎたエゴじゃないだろうか。



 落日が知れる場所は、茅野のお気に入りなんだそうだ。電車で数駅行った、海の見える場所。少しの段差でも茅野がおらって手を貸すから、いやそんな紳士いらんしとひとりでズカズカ歩いたら砂に足を取られてバランスを崩してずっこけた。

 で、後から悠々とやってきたこいつに馬鹿にされるわけだ。


「…お前それギャグなの?面白すぎんだけど」

「野郎にされる情けなんて犬も食わねーんだよ」

「出たよ反抗期。もっと可愛いこといえ。お前これからもしいい奴出来てもそんな」

「いい奴なんかいらない」


 食い気味に言ったら声が裏返った。
 そんなつもりはなくて茅野を見ようとして、でも出来なくてそのまま目を伏せる。


「このままでいい。なのに、杏子も、旱も、みんな置いてく」

「その分お前が頑張るんだろ」

「頑張りたくない」

「あのなぁ、」

「みんなと一緒にいたい」


「…でも、無理じゃん」

「…」



「俺、いなくなるよ」