アマルティアが壊れないように。

 サイカの願いの根底はそれだった。そうすることによってシンを守れると知っていたのだろう。

 魔法族は人類種とは別の種族にカテゴライズされるが、魔法が使えて寿命が長いだけでその本質は人類種とたいして変わりがない。

 勝てば嬉しいし、美味しいものが好きだし、愛しい人を当たり前に愛しく思うし、亡くせば悲しいと感じる。人類種と違うのは一つ、その悲しさをどうにかしようとする手段も知恵も持ち合わせていて、それに頼ろうとするものが一定数いるところだ。

 悲しさ、というものに明確な対処法はない。どうしても時間の解決を待つしかない。耐えて耐えて耐え忍んで、少しだけかさぶたになったころにようやく泣き止むことができる。

 精霊種や白翼、黒翼種をもってしても不老不死は夢のまた夢だという。よくて不老まで、ただそれを叶えた魔法族と竜族は今のところまだいない。

 人類種であれば、悲しみを力技でどうにかしようということが起こりえない。手段がないからだ。ゆえに特に身近な人間が死んでもその後の心配はあまりしなくていい。強いていうのであれば後を追わないように、くらいの心配で事足りる。

 ジオルグは自分のことを思い出す。疫病に侵されて泥のような血を吐いていた両親や師匠や友人たち。黒い棺に入れられて化粧をされた顔は今際の際と比べもっと穏やかで美しかった。まるで寝ているかのよう。その言葉を自分が吐き出す日がくるとは思わなかったと呆然としたものだ。

 後を追いたい、と思った時期もある。どうして一人だけ置いていかれたのか、どうして自分を連れて行ってくれなかったのか。一人寿命を待つというのがまるで永劫のように感じられて虚無感に苛まれた。

 それでも明日は容赦なくやってきて、死にたいはずなのに眠くなって、腹が減り、髪は伸び、生きていなくてはならないことを強制された。この世界のすべてに生きろと言われているような気さえした。そうして、若干仕方なしに過ごしていた日々がいつの間にか当たり前になって、自分の中に落としどころを作ってくれる。

 両親はもういない。自分は生きるしかない。そういう時間を生かされているのだと。

 人間ならそれでいい。

 だが、魔法使いは、アマルティアは、数年たってもそうはいかなかった。