グツグツに煮えたハンバーグと熱々のうどんを食べた洗礼は外に出るとすぐやってきた。
日陰を探しながらせっかくなのでもう一周ゆっくりと園内を散歩して、夕暮れ前に帰路につくことにした。
1時間弱のドライブで心地よくなったのか陽奈子は眠そうだ。
「寝てもいいよ?起こすから。あと15分くらいかな」
「うーん、じゃあお言葉に甘えて。ありがとう、ごめんね」
実際眠りにつく姿を見ると、眠くは無いはずなのにあくびが出た。眠たくなくても出るあくびは、脳が酸欠なんだとか言うけれど、本当のところは未だ原因不明らしいというのは本当なのだろうか。
話し相手もいなくなり、脳内にくだらない問答が行われそうなので少しだけ音楽のボリュームを上げさせてもらった。
カーステレオからはカーペンターズが流れている。
カレンの歌声は耳に優しく、僕も口ずさんでいた。
陽奈子の家の近くのコインパーキングに車を止めて、少しだけ歩く。
「家の前まで車で行くことはあるけど、歩くのは新鮮だ」
「そうだねー」
歩きながら目が覚めてきたようで、家族について話し出す。
「私さ、ウチの家族って仲良いほうだと思うんだよね。軽口言い合っててもどこかで信頼し合ってて」「うん」
「だからそんな中に、学くんが居てくれたら嬉しいと思う。うん、嬉しい」
その和の中に入れてくれようとしているのが、僕は嬉しい。仲良くなれるかな?という心配よりも、仲良くしたいと言う気持ちの方が上回る。
「ただいまー」
自宅に着き、玄関の扉を開けるなり、家の中へと声をかける。そして、玄関にある靴を確認して僕ににやっと笑いかけると「どうぞ、あがって」と、招き入れられた。
どうやら芦原さんこと千夜ちゃんも仕事から帰っているらしい。
「お邪魔します」
事前に連絡を入れてもらっていたので、リビングに上がらせてもらったらご家族が勢揃いしていた。
優しそうなお父さんと、朗らかそうなお母さんに迎えられて足をすすめると鳩が豆鉄砲を食らったとはこのことがという顔をした千夜ちゃんがいた。
「大石学くんです!」
「知ってるよ!」
じゃーん!と、効果音が付きそうな紹介をされて間髪入れずに千夜ちゃんがツッコむ。
その反応に満足そうな陽奈子。
ご両親も「え?どういうこと?」と、僕らと千夜ちゃんの顔を行ったり来たり見ていた。
「あー、ははっ。陽奈子さんとお付き合いしてます大石学です。実は千夜子さんとは会社が同じで……よろしくね、千夜ちゃん」
「実はじゃないですよ。確信犯だったじゃないですか……」
「大成功〜!イエイ!」
「しかも千夜ちゃんって、名前呼び違和感」
「そう?陽奈子が“千夜”ってずっと読んでるから移っちゃったよ。あと皆さん“芦原さん”だし」
陽奈子が満足気に頷き、千夜ちゃんに「はー……」と深いため息が出たところでお母さんに「そんな所で立ち話も何だから、座って座って」と勧められ、みんなでソファに腰掛けた。
事前に買っていた手土産を渡してお茶をいただきながら談笑する。
「まさかそんな偶然あるのね」
「ヒナちゃんは知ってたじゃん、私が受けた会社」
「いやぁ、実に楽しかったよ」
「私の仕事の評価も筒抜けじゃん」
「千夜ちゃんは真面目で優秀だよ」
「お?いい事じゃないか」
「身内の贔屓目じゃん」
仲の良い家族の和に迎え入れてもらった僕も笑いながら少しリラックスできた。