僕たちは“ちょっと遠出”くらいのデートがとても好きだった。
もちろん、地元でのデートも好きだけれど、月に1回は隣の県だとか、日帰りができるくらいの距離感で遊びに行っては自然に触れ、美味しいものを食べて。
僕たちは、というよりは、陽奈子が好きだった。
行動的な陽奈子は、あれをしようこれをしようと考えることも好きで、僕はその考えに乗るのが好きだった。

「今度はさくらんぼ狩りに行こう」
「いいね。6月くらいかな?」
「やっぱり長野とかかな」

そんな会話をしながら今日は、カフェでお茶をしている。
本格的に桜が咲くにはまだ少々早く、梅が終わりか早咲きの桜が咲き出す頃かと言う季節。
春はそこまで来ていそうだけれど、まだ肌寒いからと、ホットのストレートティーにチョコレートのケーキを口にしては幸せそうな顔をしている。
ほぅ、と一息ついた陽奈子が、急に顔をしかめてお腹を抑えた。

「大丈夫?」
「いたた、あーうん、大丈夫。なんだろ、急に」
「また仕事抱え込んでるの?ストレスじゃない?」
「任せられると断れない自分も自分だからねぇ。要領悪いけどみんなが助けてくれるしありがたいよ」
「あんまり無理だけはしないでよ」
「わかってるよー。ありがと」

わかってる、とは言っても少々怪しい。責任感の強さは褒められるところだけれど、甘えられずに気を抜けないのは褒められるところじゃない。
うまく力を抜いてほしいし、僕には甘えてほしいと思うのは我儘だろうか。

「ねぇ、それより!4月になったらさ、実は私の妹がね、学くんの会社に入るんだよ!聞いてびっくりしちゃった」

僕のしかめっ面が気になったのだろうか、あからさまに話題を逸らす。
わざと逸したことは分かっていたけれど、気になる話題に深掘していく。

「そうなの?なんて名前?」
「千夜子。芦原千夜子っていうの。私が言うのもどうかと思うけど、努力家だし真面目で。……歌がすごく上手くて、でも全っ然自分に自信がないの」
「へぇ」
「僕は陽奈子の彼氏だって名乗っていいの?」
「えー。そうだなぁ、驚かせたいからネタバラシはちょっと後がいいなぁ」

いたずらっ子の顔をして驚く顔を想像している。

「ちょうどさ、もうちょっとしたら家族に会いに来たいって言ってくれてたじゃない?それ、春にしよ。あー、千夜が驚く顔楽しみ〜」
「千夜ちゃん、ね。お気の毒に」




それからほどなくして、4月。
新入社員の中に陽奈子の妹である芦原千夜子こと千夜ちゃんの姿があった。
それほど大きくはない会社ではあるものの、まさか同じ部署で近いところで後輩になるとは思っても見なかったので、これはますます陽奈子が面白がるだろうなと思った。