時間を気にしながら食事を進めていると、音楽は通常のBGMからパレードの音楽へと差し替わり、間もなくキャラクターたちもやって来るのかと少しソワソワしていると陽奈子が僕を見てプッと吹き出した。

「安心してよ。もうすぐで来るけど、ここは特等席だよ?実は」
「そうなの?」
「そうなんです。パレードは反対側から来るから、時間通りにスタートしたとして10分後くらいにここらへんに来るのね?で、実はここのレストランはあんまり知られてないかもしれないけど、目の前がパレードルートなんだよね。ちょっとルートから距離はあるから見にくいって言う人もいるんだけど、ガチじゃなければ問題ないくらい見えるから」
「そうなの?」
「そうなんです。あ、ほらあっちからフロート来てる!」
「本当だ!」

どうやら本気の人達には有名なスポットがあるらしい。“ガチ”な時はひとりの時にしっかり楽しんでるから気にしないでね、と付け足しをおおらかに言う。

「好きな人はやっぱここからじゃ物足りないっていうか、建物の天井とか柱でどうしても見にくかったりするからさ。あとは単純にレストランだから、ちょうど時間帯で空いてるかどうかが分かれ目かな〜」
「たしかにね。パレード見るだけで食事しないとか退かないとかは駄目だよね」
「そそ。それはマナー違反だよね。席もちょうど空いてたから今日はラッキー!ゆっくり食べるのは……少々大目に見てもらおう」

見回しても周囲に席がなくて困っているという人は見受けられない。
お昼のピーク時間を過ぎているのでそれもあると思う。
僕らは食事を勧めながら過ごしていると、やがてパレードはこちらまで到着し、更に進んでいく。
確かに全く問題なく、座りながらこんなに視界よく見てもいいものだろうかと思えるくらいのスポットだ。
陽奈子もとびきりのキラキラスマイルでキャラクターに手を振り、手にしているカメラで一生懸命写真を撮っている。
僕は7割キャラクターを見ながら、残りの3割は陽奈子を見ながら。
キラキラした陽奈子を見ると、“小器用に”生きているらしい僕も、生きる希望が湧いたりする。
陽奈子はどこまでも前向きで、この3年間で幾度となく救われた。
就活で実はうまく行かなかったときも、なんでもないふりをしながら落ち込んだし、陽奈子はそれを見抜いて落ち込ませるだけ落ち込ませてくれた。
下手に頑張れと声を掛けられるよりも、自然体の陽奈子でいてくれたからよっぽど前を向けた。