退院前日にお見舞いに行ったら久しぶりに家に帰ることを喜んでいた。
「退院できたら、気分が良い時には向日葵見に行けるかなぁ」
「車椅子が借りられるといいね」
「うん」
今日は気分が良いらしい。
退院したらしたいことをあれやこれやと並べている。
僕はちょうど休日で、昼中からお見舞いに行くと夏がすぐそこに来ているようでまだ空が高い。
窓から遠くに見える青空が綺麗で、嬉しいと喜ぶ陽奈子は空に溶けそうで。
「結婚しようか」
思わず、僕の願いが溢れ出た。
陽奈子が病気だからじゃない、陽奈子が陽奈子だから共に有りたいと乞い願う。
「……やだ」
「え。そこは喜んでくれるところじゃないの?」
思わぬ返答に僕は戸惑い、陽奈子は笑う。
確かに、今この瞬間にプロポーズするつもりもなく本音がこぼれ出てしまっただけのものだけれど、滑稽も良いところだ。
「今は、嫌だよ。今結婚なんてしたら学くんを病気に縛るみたいですごく嫌」
「縛られたところでこの先一緒にいることに変わりは無いのに」
「やだよ。学くんの一生を縛るなら、ちゃんと元気な時がいい。だから……今は絶対嫌」
「頑なだな」
病気だってなんだって、君に縛られるのなら……君を縛れるのならなんだって良いのに。
「感傷に浸ってされたプロポーズなんて要らない。ねぇ学くん私の手を最後まで放さないで、一緒に闘ってくれたら、後は幸せになってね」
「なんだよそれ」
伝う涙を隠すことなく僕は泣く。
「今が幸せじゃないとでも思ってるの?」
「同じだ。私も幸せだよ」
僕は泣きながら怒り、陽奈子は笑った。