どうしてもっと早くに病院に向かわせなかったのだろう。
気づいていたはずだ、食べたいと言っていたのに食べられない食欲不振、繰り返される胃痛。
何度でも言えばよかった。
大丈夫、なんて言葉を鵜呑みにしていた僕は馬鹿か?病院嫌いなんて言葉に共感した僕は馬鹿だ。
時が経てば痛みも軽減するだろう、いっときの事だろう、となぜ甘く見た?
癌は治る病気になりつつある。わかってる。完治した人も沢山いる。不治の病であった頃は一つ前の時代だ。
けれど、大病であることに違いはない。
僕は馬鹿だ。大馬鹿だ。
突然の訪問にも、芦原家のお父さんお母さんは快く受け入れてくれた。
「こんばんは」
「陽奈子のこと聞いたのね?」
「はい。……陽奈子は、」
助かる見込みはあるんですか、と。飛び出そうな言葉を飲み込む。ご両親を前にあまりにも考えなしの言葉だ。
治療のことや、どの程度病気が進行しているのかは陽奈子には聞けなかった。
言い淀み、微妙な間が3人の間にできる。
打ち破ったのは、やはりお母さんのだった。
「スキルス胃癌。陽奈子はスキルスだという事までは知らないわ。私達も先生から聞いただけで、細かく理解はできてないけれど……」
「スキルス、ですか」
聞き慣れない単語にオウム返しする。
「進行ガンのことを言うそうよ。根絶治療ができないのですって。ステージⅣ、余命も宣告されているわ」
「余命、宣告ですか……?」
心臓がうるさい。
お母さんは頷き、その瞳は潤んでいる。
「治療をして、もって半年ってね、先生から言われたわ」
「正直、悲しむより先に衝撃が強すぎてな」
お父さんとお母さんは、噛みしめるように言葉を次ぐけれど、憔悴しきっているのが伝わる。
「学くん。私には、陽奈子も知らない事実をあなたに話したことがいい事なのか、悪いことなのかわからない。そしてあなた達のことを見守るくらいしかできないから、どんな判断を下したって恨むつもりもないわ」
「まだまだ、若いんだから。陽奈子の手を離しても構わないんだよ」
自分たちも身を裂かれるほど辛いはずなのに、僕のことすら想ってくれる。ねえ陽奈子、君のご両親はとても素敵な人達だよ。
「僕は陽奈子さんを、愛しています。できることが無くても、彼女が僕を必要としてくれるなら傍に居たい」
素直な気持ちを吐露すると、ご両親は優しく笑ってくれた。それにすごく胸が軋んだ。