暗闇の中で頭に浮かんでくるのは月子のことだった。
 月子はいつもこんな暗闇の中にいたのだ。
 子どもの頃から陽太陽太と後ろをついてくるうっとうしいあいつに苛つくことは何度もあった。
 付いてくるなと怒鳴れば泰司や依里に俺が怒られた。
 あれは6歳の時だったか、修練をさぼって遊びに行ったあげく、ついてきた月子を置き去りにして帰った俺を泰司が納屋に閉じ込めたことがあった。
 夕飯ももらえず納屋の中でふてくされていたら、へたくそな握り飯をひとつだけ抱えて月子がやってきた。
「依里には内緒だから」
 小窓から差し入れられた小さな手が、不思議と温かい光に包まれているように見えた。
その向こうに見えていた満月のせいだったかもしれない。
「月子……お嬢様も泰司に怒られたでしょうに」
「わたしは平気。陽太は光ってるからちゃんとついて帰れたんだけど」
「光ってる?」