目的の人形はそのピアノの上に置いてあった。最近置かれたものなのか埃はかぶっていない。それに、人形には目隠しがしてあった。月子の使っているものと同じ。菊の刺繍が入った真新しい緋色の絹が人形の背に垂れている。嫌な予感がした。誰かのいたずらかもしれない。
 その人形に手を伸ばした時、上から音が聞こえたような気がした。
 見上げると、開けておいたはずの地下室への入り口の扉が閉まっていた。
 急いで階段をあがり、扉を持ち上げようとしたがびくともしない。鍵をかけられたか、上に重いものを乗せられたか。
 一瞬にして肝が冷えた。
 誰にも発見されずにここで死ぬかもしれない。そんな考えが喉にせり上がって来る。
 ピアノが置いてあることから、もしかしたらこの地下室には防音が施されているかもしれない。助けを呼んだところで、誰もいない山の中の廃屋だ。
 しばらくペンライトの光を頼りに部屋の中を見て回ったが、電話のようなものはもちろん、出口も見つけることはできなかった。
 万事休す。