泰司先生は毎朝月子お嬢様の目に覆いを巻きにいらっしゃる。
 絹の目隠しを用意するのは私の役目だ。艶やかな長い黒髪のお嬢様に、美しい絹の目隠しがされる瞬間、わたしはぞくぞくと背筋が震える。
 何不自由ない暮らしを約束された良家のお嬢様でありながら、常に目隠しをされご自分の顔すら見ることがかなわない。
 そばかすひとつない白い肌。伏せられた長いまつ毛。わたしと泰司先生だけがお嬢様の素顔を毎朝見ることができる。
 泰司先生は毎朝のことなのに、常に緊張した面持ちでお嬢様に目隠しをして呪を唱える。
 柔らかな絹にはわたしが丹精こめて施した刺繍が日々違った花を添えている。
 可愛いらしいわたしのお嬢様。
 いつかその千里眼でわたしを見てくださいね。依里が心からお嬢様をお慕いしていることが分かるはず。常におそばにいる依里だけがお嬢様の苦しみを分かっております。