「月子!」
「陽太……!」
 陽太の手がわたしの腕をつかんで引き寄せた。屋根の下へ入ったのか全身を打ち付けるように降っていた雨を感じなくなった。すぐそばに温かい陽太の体温を感じる。
 わたしはほっとしてその体を手探りで確かめた。
「怪我はない?」
「大丈夫だ。月子こそびしょ濡れだ。足も血が出てる」
 心配そうな陽太の声に、今こそ目隠しを外してしまいたいと思った。自分の目で陽太の顔が見たい。わたしの震える指が目隠しを外そうとするのを、陽太の手が止めた。
「無理に外すな。術がかかっている」
「陽太の顔が見たいのに……」
 情けなくて涙がこみあげてくる。
「俺がもっと修行してそんなものなくても大丈夫なようにしてやる。だから」
――もう少し待っていろ。
 抱き寄せられたわたしの耳に確かにそう聞こえた。
「そんなことできるの?」
「できるに決まってるだろ。俺を誰だと思っているんだ」
 わたしの中に新たな希望という光が差し込んだ。やがて溢れるような光がわたしたちを包み込んでいた。



<了>