「陽太がそばにいるとわたし目が見えるようになるの。これも内緒。誰かに言ったら一生陽太にくっついて回るんだから」
 全く意味が分からずに困惑していると、月子は握り飯を差し出してきた。
「目の見えないやつが作った握り飯なんか食えるかよ」
 月子の手がぴたりと止まって小窓の向こうに引っ込んだ。
 そんなことを言うつもりじゃなかったのに、月子が自分の分の夕飯を俺にくれようとしているのが分かってついそう言ってしまったのだ。
 しばらくして納屋の戸が開いて月子が入ってきた。相変わらず目には目隠しが巻かれているのに、どうやって開けたんだか。
 月子は懐から銀紙に包まれた握り飯を再び取り出すと、それにかじりついた。
 しばらく咀嚼して飲み込むと
「ほら食べられるよ」
と笑ったのだ。食べかけの握り飯をあらぬ方向に差し出している姿が月の光にくっきりと浮かび上がっていた。
 俺は立ち上がって月子のそばに行くと、その手の中の握り飯にかぶりついた。