少年の親御さんがなんと頼んだのか尋ねながら、買い物を済ませた。店を出ると、少年は「ありがとう」と無邪気に笑った。「おれはなにもしてないよ」と返す。「頑張ったのは君だもん」と、また頭を撫でた。
手を繋いで駐車場を歩きながら、「おうちはどっちの方?」と尋ねた。親御さんがこの幼い子供に買い物を頼むくらいだから、きっと近所なのだろう。家族で頻繁に使っている店のはずだ。
「おうちの人とくるときはどっちからくる?」
「あっち」と少年の指が行き先を示した。
「あっち」、「それからこっち」と、少年の歩みに迷いはなかった。
ふと、「あっ」と少年の意識を引くものがあった。草むらだった。
手を放してそちらへ駆け寄っていく少年に、「どうした?」と尋ねると、「クローバー生えてる!」と明るい声が答えた。
「おお、春だねえ」
「四つ葉あるかなあ?」とそばにしゃがむ少年に「どうだろうねえ」と返して、隣にしゃがむ。
柔らかく風が吹いて、足元の草花がのんびりと揺れる。いい天気だなと心地よく思っていると、「あった!」と声が上がった。
「おおすごい。よく見つけたね」
少年は小さな手に持った幸せを、こちらへ差し出した。
「お兄ちゃんにあげる」
「え、いいの?」
彼は「うん」と元気に、無邪気に、大きく頷いた。
「一緒にいてくれてありがとうの印だよ」
「そっか」と少年の幸せを受け取って、足元のクローバーへ視線を落とす。視野の広さにはいささか自信がある。集中力も人並み以上にあると思っている。
「おっ、あった」
青い幸せを摘み取って、少年へ差し出す。彼はきょとんとした顔をする。
「なんで?」
「お買い物を頑張った印だよ。それから、道に迷わないお守り」
少年はこぢんまりした指先でささやかな幸福を受け取ると、「へへ」とかわいらしく笑った。
「お兄ちゃん、お名前なんていうの?」
「え? ああ、高野山空だよ」
「たかのやま、そら?」
「そう」
「お空の空?」
少年につられて、穏やかに青く染まった空を見上げる。
「そう。お空の空」
そう、空だ。今のおれは、空っぽ――なんてことはない。少年を家に送り届けるまでは、ちゃんと、意志がある。
手を繋いで駐車場を歩きながら、「おうちはどっちの方?」と尋ねた。親御さんがこの幼い子供に買い物を頼むくらいだから、きっと近所なのだろう。家族で頻繁に使っている店のはずだ。
「おうちの人とくるときはどっちからくる?」
「あっち」と少年の指が行き先を示した。
「あっち」、「それからこっち」と、少年の歩みに迷いはなかった。
ふと、「あっ」と少年の意識を引くものがあった。草むらだった。
手を放してそちらへ駆け寄っていく少年に、「どうした?」と尋ねると、「クローバー生えてる!」と明るい声が答えた。
「おお、春だねえ」
「四つ葉あるかなあ?」とそばにしゃがむ少年に「どうだろうねえ」と返して、隣にしゃがむ。
柔らかく風が吹いて、足元の草花がのんびりと揺れる。いい天気だなと心地よく思っていると、「あった!」と声が上がった。
「おおすごい。よく見つけたね」
少年は小さな手に持った幸せを、こちらへ差し出した。
「お兄ちゃんにあげる」
「え、いいの?」
彼は「うん」と元気に、無邪気に、大きく頷いた。
「一緒にいてくれてありがとうの印だよ」
「そっか」と少年の幸せを受け取って、足元のクローバーへ視線を落とす。視野の広さにはいささか自信がある。集中力も人並み以上にあると思っている。
「おっ、あった」
青い幸せを摘み取って、少年へ差し出す。彼はきょとんとした顔をする。
「なんで?」
「お買い物を頑張った印だよ。それから、道に迷わないお守り」
少年はこぢんまりした指先でささやかな幸福を受け取ると、「へへ」とかわいらしく笑った。
「お兄ちゃん、お名前なんていうの?」
「え? ああ、高野山空だよ」
「たかのやま、そら?」
「そう」
「お空の空?」
少年につられて、穏やかに青く染まった空を見上げる。
「そう。お空の空」
そう、空だ。今のおれは、空っぽ――なんてことはない。少年を家に送り届けるまでは、ちゃんと、意志がある。