マイケルが無機質な壁にある
装置盤の蓋を開けると、
キーボードがオープンされる。

あんな拳法技を繰り出すとは
到底見えない美しい指で
カチャカチャと小気味良く
キーを弾いて入力すると、

わたし達の目の前に拡がっていた
闇に眩しい明かりが
灯された。

「わー、都会の地下に都市伝説
あらわるって、感じー。」

「聖女トモミって、向こうにいる
時と雰囲気違うよな?こっちが
本性なのか?調子狂うよな。」

聖女トモミが声を上げる。
確かにJKと言われると
頷ける反応なのに、
纏う女神服がチグハグに思える。

其れに、
明るく照らされた
何処までも続くトンネルの前には
直立乗車タイプのスクーターが
並んで有るのにも、
わたしは驚いた。

「ラインの保守点検で
移動に使う奴よ。これを
2人乗りで使うわよ。えっと、
私はガル、トモミはフーリオ、
アヤカとカンジ、ランとリュウ
ってとこかな。大師はー、」

「いらんよ。飛ぶからな。」

この発言で少年が旧地球次元に
とらわれなき存在だと、
改めて確証でき
内心わたしは驚いた。

それは
大師と呼ばれる少年は
高次元マスター意識の
1つだと予想できたから。
ならば
少年ならば目的のモノを、
知っているかもしれない。

そう考えると、自然と
先ほどの会話が脳裏を掠める。





地下深く作られた管理室。
カンジを休ませるが間、
わたし達を含めた異邦人の状況を
華僑の令嬢マイケルが
擦り合わせ話したのは、
未来の時間軸からの訪問者である
自分達でさえ、
不可解な内容になってしまった。

『マイケルの子宮に
調整世界の将軍テュルクが
聖紋を刻んだ事で、世界同士の
ゲートが繋がっていたらしいの
だ。本来、マイケルの異世体
エネルギーを受け継いだガルゥ
ヲンを使って、調整世界にて、
魔の力を奪い封じ込めまでが、
実は調整世界でのマイケルの
使い処であったのだがの。』

真っ白いトンネルを
形成する
地下の配管パイプの横を、

わたしを前に囲い閉じ込めた
カンジがハンドル操作する
直立型自動走行スクーターが、、
風を切って走る。

『そもそも調整世界に、今世界の
島が落ちくる異常事態はない、
はずだったのだ。思うに未来人
からの影響があったのだろうと
今ならば考えつく。その結果、』


今カンジも、、、
大師少年が語った言葉を
考えている?

僅かでもカンジの体力が戻れば
と心に祈りながら、
わたしはカンジの骨太な手に
自分の手を重ねて、
風切るカンジを仰ぎ見る。

『今ここに、時間軸が違う現次元
人と、調整世界という極めて現
次元に近く影響し合う、4次元の
人がいてる状況を作ったって?』

マイケルは長い髪を揺らして
首を傾げながらも、
大師少年に更に疑問を投げて、
わたしとカンジは
それを静観していたけれど。

『もしもよ、本来は2500年後に
地球消滅する予定が、その魔の
モノとかいうのが来て、早まる
とかって物語の約束事にある
じゃない?そんな事ないの?』

次にマイケルが放った言葉で、
わたしの背中にも
カンジの身体が僅かだけど
強張ったのが伝わって、

カンジが真っ直ぐに前を見据える
瞳の奥に、
わたしも視線を合わせた。

『しかし、未来人が探すモノで
地球の危機を脱却してきたの
かもしれない可能性もあるが?』

すでにタイムリープの
強制力が働いているならば、
わたしとカンジが
彼等と出逢う事も必然で、

もしそうでないならば、
時間軸が変容して、
わたしとカンジが知る時間では
なくなり、
全てを道連れにする改変未来も
ある、、

『貴方達、これからどうするの?
追っ手が来るなら、逃げられる
ものなの?手助けなら出来る
から、車用意するけど?』

マイケルからの
それは、意外な申し出で、

『あの、どうして初対面の、
今世界の者でも無いわたしたち
を助けて下さるのでしょうか』

わたしはつい、
自然と口から疑問が音になった。

最初
マイケル自身がひどく驚いた顔を
わたしに向けた。

『アウェイでゼロスタートする
辛さを知ってるからかな。
でも、チートなスキルは、
お二人にはありそうだけどね。
ただ、後ろのヤクザさんは、
刺青が派手過ぎて、目立つね。』

きっと、
わたしの質問で初めて
気が付いたのだ。
無意識下にある
善行を理由にする感情の記憶を。

『・・・・』

まるでそれを隠す様に
苦笑するマイケルは、
カンジの彫り物に注視して、
わたしから目を逸らす。

同時に、
無言で休むカンジの腕を見た。
夜毎の睦でカンジの背中から
腕には鮮やかな彫り物が
咲き誇るのを
わたしは知っているし、
カンジの襟や袖先からも
彫絵は覗いて見える。

『えー、宜しければ、わたくし
フーリオ・ナタール・サジベル
が、魔詠唱にて消して差し上げ
ましょうか?直ぐですよ?』

魔術師ローブのコスプレだと
わたしが勝手に思っていた、
魔導師フーリオと紹介を受けた
髪の毛長い青年が
片手を挙げた。

『魔導師、いや聖魔導騎士は
そんなことも出来るの?』

『はい、どうやらこの世界でも、
魔法、魔力共に行使出来るみたい
なんで、やっちゃいますよー』

マイケルとフーリオの
やり取りに、
わたしは唖然としていたけれど、

『刺青はヴァンパイア体のエネル
ギー紋をダミーするモノでな。』

カンジは表情も変えずに
わたしも知らない
彫り物の理由を告げる。

わたし達ハウワ母星人が本来、
アーダマ帝系人と
直接迎合事なんて皆無。

何時なる時も、
操縦式人型機動兵器
ヒューマノイドアーマーウエポンのコックピットから
その面影のみで、
視線を刃に変えて
交わらすのみでは、
カンジの彫り物の理由など
知り得なくて、

悲しくなった。

『なるほど。じゃあ目立たなく
する為には、上から皮膚膜をもう
1枚はる感じにするかな。よし。
能力発動時には発光するでしょう
が、通常見えなくしますよ。』

『あなた、凄いわね。『復元』で
しょ?『治癒』ではなくて。』

『いえー。我々が1番よく使う
能力ですね怪我が多いですし。
あと、膜は眼球まで全て施し
ますから、日の光も大丈夫に
なると思いますよ。 』

『『!!!』』

驚愕の台詞は、
まるで祝福にも聞こえて、
わたしもカンジも息を飲んだ。

『それって、術者が亡くなると
消えるのよね?大丈夫なの?』

当事者でさえ、
言葉を失っているのに
マイケルは鋭い考察を更に
魔導師青年に投げる。

『さすが元カフカス宰相補佐官。
ですので、契約帰結をシスター
アヤカに施しましょう。』

更に、わたしは心内で絶叫する。

『シスターアヤカ?』

マイケルが怪訝な声を上げて
わたしを見る。

『ハウワ母星は旧地球で聖職の
使命を成す国の末裔。成れば
、わたくしも司祭貴族として
聖魔導師なる方に縁するのかも
しれないとは理解できますわ。』

これが、
わたし達一族がハウワ母星にて、
上流貴族と戦闘指揮さえ
執行する理由。

でも何故に知れたの?

『なーるほどね!調整世界の
未来人に近いとなると、
聖魔導師の末裔になる可能性が
あるから、契約帰結の縁を結べ
るのもありってことかあー。』

『難しいことよりも、聖オーラを
シスターアヤカに 感じたから、
試すだけでなんですけどね。』

わたしの疑問を汲み取るかに
フーリオは理由を簡単に
述べて、
そんなフーリオをカンジが
目を細めて見たのが
わたしにも解る。

『フーリオ、シスターアヤカが
魔導師ならば、後ろの男は敵対
していたのだ、魔族の末裔に
近いとはならないのか?』

そして
わたしが密かに
懸念していた内容を
マイケルの息子という皇子が
射抜く視線をカンジに放つ。

けれど、
皇子以外は暢気な雰囲気を
崩さない。

『どうだろ?どちらかといえば、
獣人よりのオーラかなあ。』

『あ、吸血鬼と狼男ってやつ!』

それに
もともと、
旧地球の女子高生の聖女トモミが
割と好意的な見解を
してくれた。

そして、

聖魔導師フーリオ青年の詠唱が
無機質な管理室で
静かに始まり、

カンジの彫り物の全容が
顕になったのだわ。

ここまでを思い出して、
わたしは、
自立型走行スクーターの
ハンドルを握り、

長い括り髪を靡かせた
カンジを、下から伺い直した。