「こんなオモロイ話、逃すわけないやろっ!」

 足元で轟音を唸りあげる車体にまるで鞭打つかに、権藤はアクセルの踏み込みをしていく。
 
 片やカンジはミラー越しに、追い掛けてくる車を涼し気に一瞥した。

 「嫌えば嫌うほど、追いかけてくるとは、誰が言ったか。」

 直ぐにでも愛しい片割れを救い走るところが、余計な追手を増やすのは得策ではない。カンジは搭載されたナビゲーションを起動させた。

------案内を開始します---------目的地まで----

 塩梅良く、行く先を見つけたカンジは目的地をナビゲーション保存して、海の上を走るハイウェイを高速で疾走する。と、

『ヒュン!ヒュン!カーン!!』

 カンジの運転する車体に乾いた飛行音が響き、軽い衝撃が走った。

「いやー、やっぱ転がしながらのチャカは、当たらんか!!ま、当たればモウケモンやなあ!!」

 権藤が後方から、車のウインドウを開け、片手で銃を撃ち込んできたのだ。それを確認したカンジは直進させていたハンドル操作を左右の蛇行にチェンジさせる。

-----間もなく300メートル右、合流です-------

 気が付けば海上ハイウェイは、丘の県道へと景色を変えていた。

『ヒュン、ダーーーン、ヒュン、、』

 続けざまに後方から撃たれる銃弾を、カンジはいなす。

「相当理性に欠けておいでか。、、なかなかに、しつこい犬だ。」

 今度は何発目かの弾が、バックフロントに当たった。

--------次の信号を左--------

と、同時にカンジはナビゲーションの誘導通りへとドラフト気味に県道を外れる。ここから少し住宅街を疾走となれば、権藤も無闇に撃ち込むのは難しいはず。カンジはアクセルを練り込んだ。

「くそ!、なりゃあ、これでどうか?!」

 しかし権藤は、さらにアクセルを踏み込んで、カンジの車を後ろから、矢継ぎ早に煽ってきた。

「クラッシャー権藤さまが、本領発揮よなあ!!」

 『ガン!!!』

 そして容赦なく権藤が運転する車体が、カンジのバックを突き上げた!!

「、、、」

『ガン!!!』

「つまらん総会に顔だすんは面倒だった上に、まさかのシケタニュースだ?!それがここに来て足抜け狩りたぁな。アタリやでぇ!しかも大物ときとる!」

------間もなく右、山道に入ります--------

 何度も後ろから追突をされたまま、カンジはさらにアクセルを踏み込む。車体が凹む感覚は否めない。

『ダウン!!』

 それでも、一気に車を飛び跳ねさせて直進させる。直ぐさまカンジはハンドルを切った。

 住宅道から山道へと進路を進めたのだ。

 県道や住宅道とは違い、路灯が少ない道は一際闇が濃い。
 テールランプを頼りに後ろを走る事が出来る権藤とは違い、先導のカンジは漆黒の闇を切り裂いて走らせなければならない。それでも、、

-----300メートル先を右---------左----右です----

「げ!ウソやろ?!」

 それまでクラッシュ目的の煽り運転を繰り返していた権藤が、余りの暗さに躊躇って車間を取り始める。

「光のない場所では無い。オレから見ればアヤカが輝く羅針盤だ。」

 カンジは瞳に赤い光りを放ちながら、前方を見つめ、そのまま闇に向かってハンドルを左右へと切る。
 本来ならば闇一色の山道。しかしヴァンパイアの末裔であるカンジの夜目には昼間も同然の景色に見える。
 一寸先は奈落にさえ思える山道を、確実に車を蛇行させながらカンジは駆け上がる。

「マジか!」

 権藤はカンジの後ろを、必死で追い掛ける。が、

『ヒュン!』

「止まれやーーーーー!!」

-----50メートル先、、

 しつこくも再び銃を、撃ち込んできた。

『バン!!!』

 とうとう権藤が打った弾が山道を走るカンジの車を止めるに値する箇所に当たった。タイヤだ!!


---------目的地です-----------

『ガシャーーーーヮン!!』

 突然カンジの車が大きく旋回。スピンをした。

 闇の中でテールランプが、グルグルと円を描く。権藤は既のところで慌てて、ブレーキを踏み切った。が、突然の停止に、車体が前のめりになり、

『ブアっ』
 
 権藤の前や左右にエアバックが開く!!

「うあおっと!おっ!!やったな。」

 と、山道のガードレールに体当たりをしたのだろう音。それはどちらの車の音なのか、もはや権藤には聴き分けられない。エアバックが萎んだ先に見えた光景に、権藤の口が空いた。

「え?!傾いたんか?」

 そのまま止まるかに見えたテールランプが左へとズレて、天地回転をしていくのだ。

『バーーーーン!!!』

 同時に山林を衝撃音と閃光が包む!

 ほんの数秒前まで、塗り潰した様な黒闇だった中に、赤い炎を上げる塊が、権藤の目の前に出現した。
 カンジが運転する車が落ちながら燃えたのだ!

「げ、ガソリンに点いた?!」

 権藤はガサゴソと車中に開いたエアバックをかき分け、急いで車から這い出す。

『ゴォォォ』

 明るく照らされた山の中。
 破れたガードレールの底に、燃える車体が見える。権藤は覗き込んで周りを確認した。

「うおい、これマジか。」

 カンジの姿らしきものは見えない。

『パン!パン!!』

 権藤は再び燃える車体の周りに銃弾を打ち込み、目を凝らす。

「しゃーないなあ。人んシマでやっかいや。」

 徐に胸ポケットから電話を出すと、そのまま権藤は耳に当てる。

「あー、悪い悪い。ちーっと、オモロイもん見つけてな。追い掛けとったら、はぐれたわ。ほんで悪いねんけど、火い点いてもーたから消せるもん引っ張ってきてんか?わー、わーってるって!!」

 一瞬権藤は、電話口から耳を放す。

『アニキ!何やっとんすか!まじキレますって!うおい、アニキからや。つながったわ。ほんで火消しやとぉ、、』

 電話の向かうから漏れ聞こえる声に、ウンザリした顔を見せつつも、権藤は下の車から目を離さない。

「さてな、2度死んだ若頭さまのガラはあるんかの。」

『ゴォォォ、、、』

 上着のポケットから電子タバコを出して、権藤は目の前で未だ燃える車に、供えるようにかざして、

 鼻歌交じりに自分の口に咥えた。