気が付けば
上空の気の流れが澄やかで、
心なしか
桜花の薫りが鼻腔を
擽る。
それでいて、
辺りに大人数の熱気を感じた。

「きみがよ、なのだな。」

カンジの短い吐息が
言葉となって
わたしの耳輪を掠めたから、

「『題しらず』『読み人しら
ず』の歌として1400年以上は
歌われた歌なの。きっと旧消滅
地球上でも現存する
最古の国歌が、この歌だわ。」

わたしは、メガデータから
汲み上げた情報をカンジに返す。

わたし達ハウア星系貴族は、
異常に記憶力が良いのも特質。

1つのワードを投げれば、
神経細胞がシナプスを介し
回路をつくって伝達するように。
次々と蓄積された
データが
脳内をめぐる。


『き』は男で、
『み』は女。

「男と女。貴方ととの世よ、永遠
永劫に。わたし達の願いみたい」

「しかし、どうやら外野は、
此の舞では気に入らない様だ。」

リヴァイブが無事に成功し、
目の前に現れた再現幻影。

それをまるで、
シネマを楽しむかに
背後から被さり、
わたしを腕に抱くカンジが呟く。

「そうね、、」

腰の括れを
不埒に撫でるカンジの手を
好きにさせながら、
わたしも
再現幻影に耳をそばたてる。

Ⅰ Ⅰ Ⅰ Ⅰ Ⅰ Ⅰ Ⅰ Ⅰ Ⅰ Ⅰ
Ⅰ Ⅰ Ⅰ Ⅰ
*。゜*。゜.*.。゜.゜ . *

『何、当代随一と舞とは、
此なる程度とは、興も醒める』

『イヤイヤ、鼓がいかんのでは?』
*。゜*。゜.*.。゜.゜ . *
『ちと、情けのうぞ、白拍子殿は
噂と違えて、大した事のない』

*。゜*。゜.*.

『何ぞか、ものたりんな。』

゜*。゜.*.。゜.゜ . *


確かに美しき所作。
花の化身かの佇まい。
なれど
いまひとつ心が無い、
心は、
ここには有らずなのだと
感じてしまう舞。

白拍子の舞に、集まる武士達は
騒々しく言葉を発していく。

「まるで、山鳴りだな。
この強者達の中、只1人で
舞うは、蟻地獄な敵陣に己を
置くと同じと、わからんのか」

カンジの眉が寄せられ
わたしも、
白拍子の彼女の足に
注視する。

僅かに体が震え、
きっと立つことままならない、
心境に違いない。

白拍子は床に両手つき、
礼の姿まま、岩の如く
固まった。

『なんだ、どうした!』

宴の雑言が一層酷くなる。
武士達の言葉が地響きになり
山津波と錯覚させ
回廊に臥せる彼女を
襲う。

「どうすると、、思う?」

わたしの独り言に、
カンジがわたしの下腹を
ゆっくり撫でた。

「身体に宿るのは子なのだろ?」

密やかに
わたしの耳元噛み寄せて
カンジが
答えた同時。

心に決めた表情の白拍子が、
再び
ゆっくりゆっくり立ち上がった。

『『『『『!!!!!』』』』

「何、、だ、、あれは、」

立ち登る様なオーラを纏い
回廊に現れたのは 柱。

この国は、神を柱と数える。

カンジの戦く言葉に
わたしも、喉をゴクリと鳴らす。


ひと礼する柱が、
扇子を音無く開くと、
扇から神気が

蝶と飛来する゜.゜・. ※ .

なにが起こるの?


あんなにも
騒然と声荒げ武士達が、
水を浴びたかに静まり
しわぶき一つ無き
静寂が降り落ちた。

柱が手にした扇を、そっと前へ
差し上げ
自らの口より旋律を奏でたは、、

゜.゜・. ※ .

禁断の想い歌゜.゜・. ※ .

゜.゜・. ※ . しづやしづ
 しづのをだまき
 繰り返し゜.゜・. ※ .
゜.゜・. ※ . 昔を今に
 なすよしもがな゜.゜・. ※ .『静、静』

 ゜.゜・. ※ .吉野山
 峰の白雪゜.゜・. ※ .
 ゜.゜・. ※ .踏み分けて
 いりにし人の跡ぞ恋しき

゜.゜・. ※ .『静、静』


『静、静』


繰り返し私の名を
呼ぶ人との
時。.゜・. ※ .


「涙が 出るほど、、ね。」

「女神の刹那さにな。」


梁の塵さえ心を
動かすほど壮観の恋の舞。

上下みな興感を催すの光景。
全ての心を動かされた。

『しづやしづ、、』゜・. ※ .

歌い、舞う。
舞い、歌う。
美しい。
壮絶にも美しい。

背には、全満開の桜花。
薄桃色一色に染められし世界の中、゜・. ※ .

一輪の青き苧環花が
たおやかに舞う。
光景は余りに立体総天然色
に彩られる゜・. ※ .

花見宴という
獄中野次を潮騒にした
武者は、
恍惚女神降臨なる舞や美しさに、
息を飲み、呆然のまま
声も出ない始末。

神そのものが舞っていた。

時を超えるかの一時。

人の宴など
冷水撃たれた如く静まり返る。

一瞬にして
聴衆の心を鷲摑み上げる。

神に通じる当代随一の舞姫が
愛を舞うは
これほど澄んだ舞なのか。

全身震えるほど感じる凄味。
舞台は敵武将真っ只。
女一人の舞戦。

絵巻800年が前。
時を超えるかの一時。

柱は
扇子を閉じ、舞台の真ん中に
座り、頭を垂れた。


「こんな危険なこと、、
怒りを買へば、お腹の子を
このまま殺されかねないのに」

ただ、圧倒され
わたしは言葉すれど、

「だからだな。下手な舞となれ
ば、想い人の地位さえ軽んじ
させるだろう。
家来の目を釘付けにする舞が、
愛する者と、子の名誉を守る」

カンジが後ろから支えて、
わたしがいつの間にか
流した膨大の雫払って
宥めた。

京で神下ろしの神事を成し得た
巫女は、
見初められ人に降りたという事を
まざまざと
見せつけられた。

彼女の神力は、
愛でのみ発動するとなっても。



?!!!


その瞬間!!
わたしとカンジの神経が
警告を発した!!!