「来なさいっ! 出来れば来ないで欲しいけど、来なさーいっ!」

 再び遺跡の地下を進んで行き、何事も無く結界の前に到着した。

「二人とも準備は良い?」
「うん、大丈夫ー!」

 セシルは相変わらず余裕たっぷりだけど、

「ま、任せてください。何かあれば全部一気に投げつけます」
「ダメだってば。囲まれたり、数が多い時にアーニャの出番だからね? ホーリー・インセンスの方が数が少ないからさ」
「だ、大丈夫です……きっと」

 既にアーニャがテンパリかけていて……前回は腕にしがみ付かれ、動きにくくなってしまった。
 だったら今回は先に俺から手を握っておけばどうだろうか。
 しがみ付かれるより動き易いし、いざとなれば手を離せば良いし。
 有無を言わさずアーニャの右手を握ると、

「ずるいっ! ボクもっ!」

 セシルが反対の手を握ろうとしてきた。

「いや、両手を塞がれると困るんだけど」
「じゃあ、おんぶっ! おーんーぶーっ!」

 そう言って、セシルが問答無用で俺の背中へ飛び付いてきたけど、落ちちゃうよ!
 仕方なくアーニャの手を離し、セシルの太ももを支えると、

「イヤっ! リュージさん、一人にしないでっ!」

 一人に……って、すぐ隣に居るよね?
 結局アーニャが俺の左腕にしがみつき……前回よりも酷い気がするんだけど?

「リュージ殿! 頼みましたぞぉぉぉっ!」

 ヴィックに応援されながら、セシルをおんぶして、アーニャを引っ張り……重い足取りで結界の中へ入る。
 暫くは何事も無かったけど、昨日と同じ場所で、カツカツと足音が聞こえてきた。

「二人とも、スケルトンが来るよっ!」
「お兄さん、頑張ってねー」
「リュージさん! 任せましたっ!」

 セシルは俺の背中から降りる気が無いし、アーニャはグイグイと俺を前に押し出す。
 いや、主戦力は俺だって自分で言ったんだけど、色々思っていたのと違う気がしつつ、倉魔法でクリア・ポーション(B)を取り出した。
 ビンの蓋を開け、

「とりゃっ!」

 タイミングを見計らって、中身を掛ける! ……が、ビンの口が小さいからか、少ししか掛かられない。
 失敗か!? と思ったら、ポーションが三分の一程度しか減っていないのに、スケルトンが消滅した。
 凄いな。この量で倒せるのなら、クリア・ポーションを作り過ぎてしまったかも。

「お兄さん凄ーい!」
「リュージさん、凄いですっ! キャー! ステキー!」

 アーニャが心底嬉しそうに喜んでいると、何故かセシルが俺の首に回す腕に力を込める。
 セシル。それ以上やると俺が死ぬからね?
 その後も進む度にスケルトンが現れるが、群れる習性が無いのか、常に単体なので、俺がクリア・ポーションを掛けるだけでサクサクと倒せ、暫く歩くと少し開けた所に辿り着いた。
 一定間隔で朽ちた木がが刺さっているので、おそらくここが、ヴィックの言っていた墓地なのだろう。
 残っている木にも何も書かれて居ないので、埋葬というより、ただ捨てられただけというヴィックの説明にも合う。
 そんな中で、端の方に一つだけ他とは異なる石碑があった。
 何て書いてあるのかは分からないが、石に文字が刻まれており、如何にもお墓といった感じだ。

「ロザリー=モレルって書いてあるね。これが、ヴィックの恋人のお墓じゃないかなー?」
「セシル、読めるの?」
「うん。これ、古代語だよー」

 古代語なんてのがあるのか。
 本を沢山読んで居るだけあって、セシルは博識だな。
 セシルに感心しつつ、その石の周辺を見てみると、地面から古い金属片のような物が見え……掘り出してみると、物凄く古い腕輪の様にも見える。

「これ、ロザリーさんのかな?」
「きっとそうですよ。ヴィックさんの依頼は達した訳ですし、早く帰りましょう!」

 アーニャが早く帰ろうと催促してくるので、一先ずこれをヴィックに確認してもらおうと思った所で、

「お兄さん! 何か……来るっ!」

 緊張した様子のセシルが鋭く声を上げた。