レッドフロッグが重いので、手足を剣で斬って軽くして、風で吹き飛ばす。
 巨大なレッドフロッグの手足を切り落としたから、いけるのではないかと思っていたのだが、セシルの竜巻に俺が巻き込まれてしまいそうだ。

「うぉぉぉっ!」

 雄たけびと共に、水が無くなった川を全力で走り、少しでも竜巻から逃げる。
 あんなのに生身で巻き込まれたら、死ぬ。絶対に死んでしまう。
 身体全体の身体能力が上がっているので足も速くなっているけど、それでも逃げきれないっ!
 このままではダメだと判断した俺は、

「うりゃぁぁぁっ!」

 手にした剣を足元へ力いっぱい突き刺し、全力でしがみつく。
 身体を持って行かれないように歯を食いしばっていると、前から竜巻に吸われるように太い綱の様な物がゆっくりと迫って来て……いや、綱じゃない。
 あれは……ヘビ!?
 どうして、ヘビが? いや、そんな物に構っている場合じゃない。
 川の周囲に居たのか、巨大竜巻に巻き込まれ、十数匹の太い蛇が竜巻に向かって吸い込まれていく。

 ……竜巻の範囲も広い上に、消えるまでの持続時間も長くなっている。

 喋る余裕すら無く、ただひたすらに耐えていると、前から先程の太い蛇が一匹飛んで来た。
 これは……直撃する!

「――ッ!」

 顔に向かって真っ直ぐに飛んで来たヘビを左腕で防ぐと、手を出した場所が悪かったのか、牙を突きつけられる。
 もしかしたら、このヘビも俺と同じように踏ん張りたかったのかもしれないが、思いっきり左手を振ると、ヘビが離れて後方へと飛んで行った。
 ヘビは剥がせたが、剣から左手が離れてしまった。
 吸いこまれそうになる身体を右手一本で何とか支えているけど、これは厳しい。
 まさか魔力が尽きかけていたセシルが、最後の最後でこんなに強力な魔法を使うとは……って、違う。そうじゃない。
 俺がセシルにマジック・ポーションを渡したけど、あの時Aランクのポーションを渡さなかったか!?
 つまり、Aランクのナリッシュメント・ポーションを飲んで俺の身体能力が上昇したように、Aランクのマジック・ポーションの付随効果で、セシルの魔法の力が上昇したんだ。
 セシルは何も知らずに、先程と同じように竜巻の魔法を使っただけなのに、もしも俺がこれに巻き込まれて死んでしまったら……セシルは何も悪くないのに、絶対に自分のせいだと思い込んでしまう!
 セシルが悲しむ事を、保護者である俺がしてどうするんだっ!

「――ァァァッ!」

 竜巻に引っ張られて既に身体は浮いているけど、右腕で一本で身体を引き寄せると共に、ドクドクと血が流れ出る左手を剣へと伸ばす。
 既に両手とも感覚が無いけど、セシルを悲しませてしまうのを避けたい一心で剣にしがみついていると……突然身体が地面に落ちた。
 もう身体は引っ張られないし、起き上がって後ろを見てみると、あの大きなレッドフロッグも居ない。
 セシルの竜巻で、どこかへ吹き飛ばされたんだ。

「お兄さーんっ!」

 少しすると、セシルが俺の名を叫びながら走って来て、

「お兄さんっ! 無事で良かった! 良かったよぉぉぉー!」

 涙声で俺の胸に飛び込んできた。

「お兄さん、ごめんなさいっ! どういう訳か、いつもよりも強力な竜巻が出て巻き込んじゃって。ボク、蛙と一緒にお兄さんを吹き飛ばしそうで……」
「違うんだ。それは俺のせいなんだよ。俺が効果をちゃんと確認せずにAランクのポーションを渡してしまったのが悪いんだ」

 やはり、先程思った通りだったのか。
 でも、心配させてしまう結果になってしまったけど、とにかくセシルを絶望させる事にならなくて良かった。
 胸に顔を埋めるセシルの頭を優しく撫でながら、俺は一人安堵の溜息を吐いたのだった。