――ゲロゲロゲロゲロ
――グヮグヮグヮグヮ
昔、キャンプ場へ行った時に夜通し聞かされた、あの鳴き声が響き渡る。
「セシル。この鳴き声って……」
「うん。蛙だね」
「だよね……って、セシル。どうしてそのまま布団に潜っていくの?」
「え? だって、ボク眠いもん」
「ちょっと待って。もう少しだけ頑張ろ! 多分、蛙って夜行性なんだよ。だから、昼間探しても見つからないんだって」
何十、何百という蛙の大合唱が聞こえてくるが、これだけの数が居て、昼間に見つけられなかったのは、きっとどこかで眠っていたんだ。
倒すのであれば、出てきている今が良いだろう。
けど、俺に魔物を倒す力はなく、セシルに頼むしかない。
「じゃあ少しだけ寝たら頑張るね」
「いや、絶対にそのまま熟睡するでしょ。セシル、お願いだから少しだけ頑張って!」
「ん-、お兄さん。着替えさせてー」
「分かった。着替えさせるから、頼むよ」
半分寝ているセシルのパジャマを脱がせ、服を着せていると、
「リュージさん。上半身だけ服を着せて下半身を露出とは、随分とマニアックではないですか?」
「何の話だよっ! それよりアーニャ。蛙が出たよっ!」
「はい。私の部屋でも聞こえました。準備は出来ています」
だったら、今の俺とセシルの状況も分かって欲しいのだが。
着替えを済ませ、寝ぼけ眼のセシルをアーニャに預けると、ララさんの部屋へ。
「ララさん、蛙です! 今すぐ出られま……」
「い、今すぐ出られるようにするので、先ずはリュージさんが出て欲しいです」
「すみませんっ!」
着替えている途中だったのか、半裸のララさんに謝りながら部屋を出ると、
「お待たせしました」
顔を真っ赤に染めたララさんが出てくる。
「い、行きましょうか」
「あの。リュージさんは、そのままの格好なんですか?」
「……あ!」
女性三人が着替えを終えたのに、俺がパジャマ姿のままだったのだが、
「お兄さん。早く行こうよー」
「リュージさん。早く行きましょう。セシルさんが寝てしまいそうです」
「くっ……い、行きましょう」
主戦力のセシルのためにと、そのまま行く事にした。
家を出ると、川の中とその周辺に、昼には無かった大きな石が沢山置かれている。
一つ一つの石が一抱えくらいあるんだけど、どうしてこんな石が大量に……って、石が跳んだ?
「ちょっと待って。あの石みたいなのって、まさか……蛙?」
「はい、ポイズンフロッグです。しかし、こんなに大量発生しているのは見た事がありません」
そうだよね。
幅がおおよそ十メートルくらいある川を黒い石――もとい蛙が覆い尽くしているんだから。
「セシル、この数を倒せる?」
「一度には無理かも。でも、きっと大丈夫……ふわぅ」
眠そうに欠伸をかみ殺したセシルが小声で何かを呟くと、川の水ごと蛙を吸い上げ、黒い竜巻が三つも発生する。
「竜巻を一つ起こすだけでも凄いのに、同時に三つも起こせるんだ」
「もっと出来るよ? でも、これくらいの数なら三つで十分かなーって」
これでまだ余力があるなんて、本当に凄いな。
竜巻が消えた後、川の水が少し減ってしまった感じがするけど、あっという間に蛙が殆どいなくなったし、良しとしよう。
残りは竜巻の力が及ばない端の方に居た数匹の蛙だけ……と思っていたのに、突然十数個の黒い石が川の中に現れた。
「今、黒い石が増えなかった?」
「私も増えたように見えました」
「そうだねー。それでね、川の真ん中にある岩から、魔力を感じたよー」
ララさんとセシルも俺の意見に同意した後、アーニャが口を開く。
「リュージさん。あの大きな岩って、蛙じゃないですか?」
獣人族は夜目が効くらしいので、アーニャがそういうのであれば、あの三メートルくらいありそうな大きな岩は蛙なのかもしれない。
「そうだ。皆、これを!」
夕食前に作った暗視目薬を倉魔法から取り出して皆に配り、俺も使うと、
「確かに蛙だね。赤色の、いかにも毒ですって感じの蛙だけど……それにしても大き過ぎるよっ!」
その異様な姿に思わず叫ぶ。
その直後、ララさんが緊張した様子で、
「待ってください。あの大きな蛙……あれはポイズンフロッグの特殊個体、レッドフロッグですっ!」
特殊個体という嫌な予感しかしない言葉を発した。