「……さん。お兄さん!」

 心配そうなセシルの声と共に目を覚ますと、少し陽が落ちかけていた。

「お兄さんが目覚めたっ! お兄さーんっ!」
「セシル!?」
「もうっ! 心配したんだからねっ!」

 横になっている俺に、セシルが覆いかぶさるようにして抱きついてくる。
 セシルの柔らかさと温かさを感じるのだが……何故か俺の後頭部にもムニムニした感触があるんだけど、これは何だろうか。

「リュージさん。ご気分はいかがですか? 突然倒れてきたので、ビックリしましたよ」

 アーニャの声がすぐ上から聞こえ……って、目の前にアーニャの顔がある。
 という事は、まさかアーニャに膝枕してもらっているの!?
 セシルとアーニャに挟まれ、ちょっと幸せな気分を味わいつつも、いつまでもこうしていられないので起き上がると、ララさんが現状を話してくれた。

「私とセシル様で川を下流から見ていましたが、特に変わった様子はありませんでした。この為、魔物はもっと上流だと思うのですが、もうすぐ陽が落ちます。どこかで野宿をするか、一度町へ戻るかを決めなければなりません」
「じゃあ、ここで朝を待とう。ここならまだ山の手前で広さもあるし」

 早速城魔法を使って家を呼び出すと、診療所だけだと思っていたララさんが、キッチンやリビングある事に驚いていた。

「凄いですが、この水道の水はどこから来ているのでしょう?」
「実は俺も分からないんだよね」
「そうなんですか。不思議な魔法ですね」
「でも、そもそも魔法自体が不思議なものじゃないの?」
「いえ、決してそういう訳ではないのですが……って、ほ、本があるんですかっ!?」

 いつもの通りアーニャがご飯の準備をしてくれて、セシルがリビングでゴロゴロしながらラノベを読んでいると、それに気付いたララさんが目を丸くする。
 どうやら騎士でも本は貴重らしい。

「ララさんも読みますか?」
「宜しいのですか?」
「もちろん。どういう話が良いですか?」
「どういう話……というと?」
「いろんな種類があるので。ララさんなら、戦記ものとかが良いのかな?」

 聞けば、騎士は文字の読み書きが出来ないといけないそうなので、文字数が多くても全く問題ないそうだ。
 何にするかを少し考え、名作と呼ばれる騎士が主人公のラノベを渡し、セシルとララさんが二人して読書をしている間、俺は調剤室へ。
 これから蛙毒の原因となる魔物を倒す訳だから、キュア・ポイズンを多めに作って、すぐ使えるように倉魔法へ格納しておこうと思う。
 あと、患者さんの中には麻痺毒も受けていた人が居たし、一つで全部治せるパナケア・ポーションも作っておく。
 体力回復のバイタル・ポーションも作っておき、万が一の事を考えてマジック・ポーションも。
 魔物が沢山居るだろうって話だから、セシルが魔法を連発しても大丈夫なようにしておかないとね。
 それから……前にガーネットが来た時、暗視目薬を使ったから、これも作っておこうか。
 これはAランクが必要だから、ちょっと多めに作らないと。
 ……しかし、同じ調合をしているはずなのに、どうしてAランクとBランクで分かれてしまうのだろうか。

「皆さーん、ご飯ですよー!」

 ある程度の数のポーションを作り終えた所でアーニャの呼ぶ声が聞こえてきたので、リビングへ。
 今日も美味しいアーニャの料理を味わっていると、

「魔物退治の途中でこんなに美味しい食事が出来るなんて……」

 何故かララさんが物凄く感動していた。
 アーニャの料理が美味しいのは分かるけれど、涙まで流さなくても。

「お風呂は誰から入る?」
「お風呂!? お風呂にまで入れるんですかっ!? ……こんなの、私が知っている魔物退治の任務じゃないですっ!」

 まぁ、そもそも任務じゃないんだけどさ。
 でも騎士の任務ってキツそうだもんね。
 一先ずララさんにゆっくり休んでもらおうと、お風呂へ入ってもらっている間に空き部屋に布団を敷いておくと、またもや感動されてしまった。
 それから、いつものようにセシルが俺の部屋に来て、さぁ寝ようかというところで、どこかで聞いた事のある変な音が、窓の外から聞こえてきた。