クリニック側の入口の前から始まった長蛇の列が、グルリと家を囲う。
 懐かしい。
 休日の開業時間前はいつもこんな感じだったな。

「リュージさん! どうしてほっこりされているんですか!?」
「ごめんごめん。ちょっと懐かしいなって思って」
「懐かしい?」
「何でもないよ。とにかく患者さんを中に入れてあげよう。立ちっぱなしだと辛いだろうしね」

 アーニャに受付へ立ってもらうと、

「これから診察を始めます。順番に中へ入ってください」

 扉を開け、大きな声でゆっくりと話す。

「ここへ来たら、身体の辛さが治るってお姉……ララに言われたんですけど」
「その通りですが、一人ずつしか診れませんので、最初に並んでいた方から、こちらの女性に名前と……どんな風に辛いのかを伝えてください」

 アーニャが、そんなの聞いてないんですけど……とでも言いたげにチラリと俺を見て来たけど、ちゃんと対応してくれている。
 そんな中で一人目の患者さん――ララさんを少し幼くしたような、少女の受付が終わったので、診察室へと招き入れた。

「診察を始めますが、僕は医者で、触診っていう胸に触れる事で貴方の身体の状態を知ります。だから、決して疾しい事があるわけじゃなくて……」
「はい。ララから聞いてます。恥ずかしいけど、身体の辛さが治って欲しいし、お願いします」

 そう言って、少女が服をたくし上げたので、その胸に触れながら、こっそり診察スキルを使用する。

『診察Lv1
 状態:蛙毒』

 診察スキルによると、少女はララさんと同じ蛙毒だけど、弱と表示されていないので、ララさんよりも症状が重いようだ。

「症状は分かりました。少しお待ちを」

 蛙毒はキュア・ポイズンで治ると思うけど、Bランクで治るだろうか。
 というか、AランクとBランクしか無いから、必然的にBランクを出さざるを得ないんだけどさ。

「貴方のお名前を窺っていましたっけ?」
「ルルです」
「失礼しました。ルルさんは蛙毒に掛かっていますので、こちらの薬を飲めば治りますよ」
「蛙毒? どうして、そんな毒が……」

 ルルさんが首を傾げながら、黄緑色の液体――キュア・ポーションを飲み終えると、

「凄いっ! お姉ちゃんの言った通りです! 身体がだるく無いし、痛みも無くなりました!」

 突然物凄く元気になった。
 まぁ、そもそも元気だったら、診療所に来ないか。

「ルルさんは、ララさんの妹さんだったんですね」
「あ! えへへ。身内って事もあって、お姉ちゃんが真っ先に教えてくれたんです。すみません」
「それは構わないと思うけど……それよりも、ちゃんと治ったかどうかを確認するので、もう一度だけ胸を見せてください」
「もー、先生ったらエッチなんだからー。今回だけですよー?」

 どうしよう。ノリについて行けないんだけど。
 これが若さという奴なのだろうか。

『診察Lv1
 状態:健康』

 うん。診察スキルを使うと、ちゃんと蛙毒が消えている事が確認出来た。
 蛙毒はキュア・ポーションで治る事が分かったので、これからは迷わず出して行こう。
 ……Bランクしかないけど。

「先生、ありがとうございました! 友達にも教えてくるねー!」
「うん。苦しんでいる人が居たら、ここへ来るように言ってあげて」
「はーい!」

 日本だと女子高生って感じだろうか。
 役得とか言ったら怒られそうだけど、彼女の胸……じゃなくて、元気な笑顔を見られて良かった。
 少しテンションが上がった所で、

「アーニャ。次の人は誰かな?」
「エレナさん。診察室へどうぞ」

 アーニャが次の人を案内する。
 次はお母さんと一緒に来た男の子で……いや、もちろんちゃんと診察するよ? 苦しんでいる患者さんだからね。
 胸の事を少し考えてしまっていた自分に反省しつつ、次の診察を始めた。