白魔法が使えない回復術士は要らないと言われたので、実家を召喚出来る城魔法を使って、異世界スローライフ


「お兄さん。スキルとか魔法とかって聞こえてきたけど、何があったの?」

 ガーネットが帰った後、セシルが布団の中からピョコンと顔だけ出してきた。

「ガーネットが妖精の加護だって言って、新しいスキルをくれたんだけど……セシル。倉魔法って知ってる?」
「倉魔法? 黒魔法じゃなくて?」
「うん。黒魔法じゃなくて、倉魔法なんだ」
「ごめん。聞いた事がないよ」
「だよなー」

 城魔法はまだ白魔法と漢字が違うだけだったけど、倉魔法は漢字も違うし、発音も違うんだが。
 まぁそれを言い出したら、最高のクレリックと斉藤クリニックなんて、間違いだらけだけどさ。

「アーニャは倉魔法って聞いた事がある?」
「無いですけど、とりあえず使ってみたらどうでしょうか。察するに、倉を呼び出す魔法なのだと思いますが」

 そうなんだけど、城魔法がお城じゃなくて、実家を呼び出す魔法だったんだよね。
 実家に倉なんて無いし、一体何が出てくるのだろうか。

「ちょっと外で使ってみるよ」
「ボクも行くよー。せっかくだし、どんな魔法か見てみたいしねー」
「では、私は朝食の準備をしておくので、終わったらリビングへ来てくださいね」

 俺とセシルで家の外に出ると、早速使ってみる。

「ストレージ! ……あれ? 何も起こらないぞ?」

 城魔法は分かり易く光って実家が出てくるんだけど、倉魔法は何も起こらなくて……どうなっているんだ?

「お兄さん。左手の所に大きな魔力の塊があるよ?」
「魔力の塊? ……確かに何かありそうな感じがするけど、これは何だ?」

 恐る恐る手を伸ばし、宙に漂う黒い靄――魔力の塊に触れると、突然脳裏に銀色の板が描かれる。
 診察スキルを使った時に出てくるあの銀の板なんだけど、目の前ではなく、頭の中にイメージとして出てきた。
 その板の中に二十個の四角い枠が描かれていて、その中の一つ、一番左上の枠にだけ、石の絵が描かれている。
 ……このスキルはまさか、異世界転生ものにおける超有名なチートのアレなのかっ!?
 確信に近い想いを抱きながら、脳内でその石を取り出すイメージをすると、左手の中に拳大の石が握られていた。

「セシル。これ空間収納魔法だよ」
「空間収納魔法? そんなの聞いた事がないよ?」
「簡単に説明すると、いつでもどこでも出し入れ自由な倉庫を呼び出す魔法なんだ」
「そうなんだ! これで、いっぱい薬草を摘んでも、毎回家を呼び出さなくても済むね」
「あぁ。そう……だな」

 あれ? 空間収納魔法って凄いチートだと思うし、実際セシルも知らないって言っているんだけど、よく考えたら城魔法でも同じ事が出来ているな。
 まぁ、広い場所が無くても使えるようになって、ちょっと便利になったと思えば良いか。
 せっかくなので、周囲の薬草を少し摘んで倉魔法で格納してみると、元々石があった場所に薬草の絵が描かれる。
 家を呼び出さなくても取り出せるから、良く使うポーション類を入れておくと便利かもしれない。
 そんな事を考えながら家に戻ると、アーニャがサンドウィッチみたいな朝食を用意してくれていたので、倉魔法の説明をしながら食事を済ませて出発すと、

「えいっ」
「やぁっ」
「とー」

 早速魔物が現れ、今日もセシルに守ってもらう事に。
 倉魔法を修得したものの、相変わらず俺は戦闘では全く活躍出来ないまま、昼食を挟んで次の街へと辿り着いた。
 いいんだ。途中、いっぱい薬草を摘んで倉魔法に格納したから。
 自分でそう思いながら若干悲しくなりつつも、街の入口にあった看板から「グレーグン」という名前の街だという事が分かったんだけど、門に誰も居ないんだけど。

「何て言うか、寂れた街だな」
「うーん。人が多くて活気に溢れている街だって、ボクは聞いた事があったんだけどなー」
「一先ず、この街のギルドへ行ってみてはどうでしょう? 何か分かるかもしれませんし」

 一先ずアーニャの言う通り、時折貼ってある街の地図を頼りに商人ギルドへ。
 しかし街の門どころか、ゴーストタウンかと思える程、通りに人が居ない。
 家の中に人が居るのが気配や音で分かるので、完全に無人の廃墟ではないのだが、大通りに誰も居ないというのは、どういう事だろう。

「ここ……だよな? 入るよ?」

 街の中心近くにある大きな建物に辿り着き、その扉を開くと、

「……えっ!? あの……他の街から来られた方ですか!?」
「えぇ、そうですが」
「お願いしますっ! ポーションを……薬を売っていただけないでしょうかっ!」

 顔色の優れないお姉さんに、いきなり迫られてしまった。