ニコニコと屈託の無い笑みを浮かべるセシルが、すぐ傍で俺を見上げている。
 ほんの数時間前の俺なら、約束通りセシルと一緒に寝ていただろう。
 だが、成人男性である俺と同じベッドで一晩を過ごして……って、待てよ。良く考えたら、何も問題ないのか。
 セシルは一人で寝るのが寂しくて、誰かと一緒に眠りたいだけ。そこに変な意味合いは一切ない。
 俺はロリコンじゃないから、セシルに何かしようとは思わない。
 そう、何も起こらないなら、何も問題が無いんだ。

「わかった。約束だし、一緒に寝ようか」
「うんっ! やったぁ」

 嬉しそうに喜ぶセシルの顔を見て、その笑顔が初めて会った時から変わって居ない事に気付く。
 そうだ。俺が勝手にセシルを少年だと思っていて、そして勝手に少女だったと知っただけで、セシルは最初からずっと今のセシルのままなんだよ。

「猫のお姉さんはどうするの? 三人で一緒に寝る?」
「で、出来れば別の方が嬉しいです」
「そっか……」

 アーニャがいろいろと言いたげな表情で俺を見てくる。
 分かってる。アーニャが言いたい事は分かっているんだ。
 けど約束だったし、俺は何もしないし、何も起こらないから目を瞑って欲しい。

「アーニャの寝室は、こっちの部屋にしよう。この部屋はアーニャが自由に使ってくれて良いから」
「わ、わかりました」

 セシルを俺の部屋で待たせ、芽衣の部屋をアーニャにあてがったついでに、俺とセシルが一緒に寝る事になった経緯を簡単に説明しておいた。
 とはいえ、全て俺の推測に過ぎないし、あまりプライベートな事を言いふらす物でも無いだろうと思って、ごくごく簡単にだけど。

「私がお二人に何かを言う立場ではないですけど、セシルさんを泣かせるような事はやめてあげた方が良いかと……」
「だから、そういうのじゃないってば」

 ……経緯の説明を簡単にし過ぎたからだろうか。
 俺の意図が全て伝わって居ないけど、あまりセシルを待たせ過ぎるのもどうかと思って、一先ず自分の部屋へと戻る。
 するとセシルがベッドに入ってラノベを読んで居て、

「あ、お兄さん。もう猫のお姉さんに説明は終わった? じゃあ、早く寝ようよー」

 俺に気付いたセシルが本を閉じた。
 どハマりしているラノベよりも睡眠を優先するのなら、早く寝た方が良いか。
 部屋の照明を消してセシルの横へそっと入ると、

「おやすみ、セシル」
「うん。おやすみ、お兄さん」

 俺も今までずっと忘れていた、優しい温もりに触れながら眠りに就く。

……

 翌朝。
 セシルと同じベッドで寝たけれど、当然何事も無く起床したのだが、何故か身体が重い。
 まるで身体の上に何かが乗っているような……って、乗ってたよ。
 掛け布団を剥がすと、俺の胸に顔を埋めるようにしてセシルが眠っている。
 一応、言い訳をしておくが、寝るときはちゃんと横並びで眠っていたんだ。

 それなのに……どうしてこうなった。

 まぁでも、セシルに女の子らしい膨らみは無いし、この状況から俺が変な気持ちになる事はないから、これ以上は何も起こらないけどね。

――コンコン

「おはようございます。朝ごはんの支度が出来たので、そろそろ起きて……」

 突然扉がノックされ、アーニャが部屋に入った来たかと思うと、ベッドに目をやった途端に固まる。

「違う! 違うんだっ! これは、決して変な意味は無いんだっ! セシル、セシルッ! 起きて! 起きてフォローしてっ!」

 俺を見つめるアーニャのジト目に耐え切れず、セシルを起こそうと身体を揺すると、

「……ん、んん……お兄さん。激しいよぉ」
「いや、どんな夢を見ているんだよっ! というか、間が悪すぎるよっ!」

 とんでもないタイミングで出た寝言により、ますます気まずい雰囲気になってしまった。