一先ずこれから俺たちがどうするかを決める事にしたんだけど、目的はアーニャの家族を探す事だ。
だが、……どこへ行けば良いかというアテが無い。
「情報収集なら人が多い場所が良いと思うんだけど、どうだろう?」
「そうだね。貿易が盛んな街だと、人の出入りが多いから、いろんな国の事が分かるんじゃないかなー?」
「おぉー、流石セシル。なるほどねー。じゃあ、この近くで貿易が盛んな街はどこだろ? やっぱり王都?」
「詳しくは知らないけど、王都は違う気がするよー。なんでも王都に商品を持ち込むと、税金が高いとか何とかで、貿易はそんなに盛んじゃないって聞いた事があるから」
セシルは凄いな。貴族の息子――って、俺がそう思っているだけだが――ならではの情報だ。
「あのっ。貿易なら港町が盛んではないでしょうか?」
「じゃあアーニャの言う通り、海を目指してみよう」
「そうですね……って、私、どっちに海があるか分からないんですけどね」
うん。俺も分からないよ。
こういう時はセシルに聞いてみるのが一番だと思うんだけど、何故か当のセシルが不思議そうな表情を浮かべている。
「セシル、どうかしたのか?」
「えっと、二人とも普通に話していたけど、港町とか海って何?」
「そうか、セシルは海を知らないの!?」
「うん。話からすると、貿易が盛んになる要素があるんだよね?」
「あぁ。だが、セシルが海を知らないって事は、この辺りに海が無いって事なんだろうな」
「お兄さん。だから、その海って何なのさー」
思わずアーニャと顔を合わせ、二人がかりでセシルに海と港町について説明していくが、
「二人が言っている海や港町っていうのは何となく分かったけど、この国は元より、近くに海なんて無いと思うよ?」
悲しい答えが帰って来てしまった。
「うーん……あ! 商人ギルドは? そこなら、貿易みたいな事もやっているんじゃないかな」
「良いんじゃないかな。けど、この村の規模だと貿易なんて大きな取引は望めないから、商人ギルドの本部に行ってみようよ。ただ、ボクも本部の場所までは知らないから、商人ギルドへ聞きに行こう」
アーニャも連れて商人ギルドへ行くと、受付の女性が俺たちを見た途端に奥へと引っ込み、ギルドマスターであるトーマスさんが現れた。
今日はセシルが俺の後ろに隠れていなかったからなんだろうけど、本当にセシルはどういう立場なのだろうか。
「セシル様、サイトウ様。本日は当ギルドへどのような御用件でしょうか」
「すみません。そんな大した用事では無いんですけど、商人ギルドの本部がどこにあるのか教えて欲しいんですよ」
「本部でございますか? 私も一度か二度程しか行った事がないのですが、ヂニーヴァの街にございます」
「ヂニーヴァ……って、近いですか?」
「いえ、遠いですね。ここから南西の方角にあるのですが、通常でも馬車で十日程掛かるかと」
馬車で十日って、それメチャクチャ遠いよね。
王都からこの村までの半日でさえ、する事がなくて結構苦痛だったのに。
「ん? 通常でも……って、今は通常ではない何かがあるんですか?」
「えぇ。二日前に起きた大きな地震で、西へ繋がる街道が崩れてしまったのです。そのため、それを知らずに出発していた馬車も軒並み戻ってきておりまして」
大きな地震があったのか。
地震は怖いからな……って、二日前? あれ? それって……
「あぁ、あの地震は凄かったね。とてつもなく大きな魔力が働いたのを感じたよ」
「なんと、魔力ですか! セシル様が仰るのであれば、お間違いないでしょう。何か良からぬ事が起こらなければ良いのですが」
セシルが魔力がどうとか言っているけど、もしかしてその地震って、俺を異世界召喚した時に起きたんじゃないかな?
異世界召喚って、きっと凄い魔法なんだよね? まぁ俺は間違って、勝手に呼ばれた側なんだけどさ。
「ここから直接行けないのであれば、一度王都へ戻った方が良いんですか?」
「そうですね。王都からですと南周りの街道がありますが……かなり遠回りになるため、おそらく二十日以上かかるのではないかと」
「二十日以上!? 流石にそれは厳しいかな」
十日でもどうかと言うのに、その倍以上掛かるのは勘弁願いたい。
けど、歩いて行けばもっと時間がかかるだろうし、自分で馬を調達して……って、馬なんて乗った事ないよ。
どうしたものかと考えていると、
「そうだ。お兄さん、一先ず南西に行ければ良いんだよね?」
「あぁ。その崩れた街道さえ抜けられれば、次の街で馬車があるだろうし」
「じゃあ大丈夫。きっと何とかなるよ」
セシルがニコニコと微笑みかけてきた。