苦しむ少女の口に作ったばかりのクリア・ポーション(A)を飲ませると、表情が穏やかになっていく。

「診察」

『診察Lv1
 状態:病み上がり』

 再び聴診器を使って診察を行うと、「病み上がり」に変わっているので、おそらく解呪されたのだろう。

「お兄さん。この子、もう大丈夫なの?」
「うん。大丈夫なはずだよ」
「良かった……って、お兄さん。『診察』ってなぁに?」
「あー、どんな薬が必要なのかを調べる事が出来るスキルなんだ」
「じゃあ、お医者さんでもあるんだ! 凄い!」

 実際はなんちゃってスキルだけどね。

「……ん。……あ、あれ?」
「気付いた? もう苦しく無い?」
「はい。貴方たちが助けてくれたの?」
「一応ね。随分と苦しそうだったけど、どうしたの?」
「それが、私にも分からなくて」

 改めて見てみると、中学生くらいの小柄で可愛らしい少女で、茶色い髪の毛の中から猫耳が生えているので、思わずモフモフしたくなる。

「私の耳ばかり見て、どうかしたんですか?」
「いや、初めてみたから」
「え? 猫耳を始めて……って、ここは何ていう地名なんですか?」
「セシル、分かる?」

 良く考えたら、俺この国の名前すら知らないや。
 召喚された時に、いろいろ聞いておくべきだったな。

「お姉さん。シュヴィーツァ国のモラト村だよ。ここはお兄さんのお家の中」
「聞いた事が無い国です。この辺りでは、私のような獣人族は少ないんですか?」
「少なくともボクは聞いた事がないよ。遥か東に行けば、獣人族が居るって聞いた事はあるけど」
「そう……ですか」

 セシルの言葉で、猫耳の少女ががっくりと項垂れる。
 そりゃそうだろう。俺だって、この世界へ来た直後はビックリして途方にくれたしな。

「もしかして、誰かに召喚魔法で呼ばれたとか?」
「お兄さん。どうして召喚魔法なんて知っているの? あれは教会の秘術なのに」
「え? いや、何となくそんな気がしたんだよ……というかセシルこそ、どうしてその秘術を知っているの?」
「それは……秘密って事で」

 セシルが貴族の息子の様に、俺も召喚魔法で呼ばれた異世界の住人なんだよね。
 誤字で誤って呼び出されたんだけど。
 そんな事を考えていると、少女が口を開く。

「気を失う直前に、家族を引き裂いて呪いを……って言葉が聞こえた気がします」
「家族? 呪い?」
「はい。私のお父さんが冒険者で、魔王の城へ挑む程の最前線に居るので、魔王の呪いが私やお母さん、妹に来たとか?」
「……正直に言うと、君は呪いが掛けられていて、凄く苦しんでいたんだ。幸い、解呪出来たんだけどさ」
「じゃあ、やっぱりあの言葉は家族全員に!? あの、助けてくれてありがとうございました。いつか必ずお礼に来ますから」
「ちょっと待って。まだ起き上がっちゃダメだよ。君はさっきまで物凄く苦しんで居たんだよ!?」
「でも、お母さんや妹を探さなきゃ……」

 少女が立ち上がろうとして、ふらついたので、すぐにベッドへ寝かせる。
 診察した時も、病み上がりって表示だったし、無理はさせられない。

「お姉さん。家族を探すって、どこに居るのか分かっているの?」
「分からないけど、絶対に探してみせます!」
「どうやって?」
「で、でも家族なんですっ! 絶対に再会するんですっ!」
「……家族かぁ」

 泣きそうな少女を看て、セシルが困惑している。
 猫耳少女が持つ家族愛に戸惑っているのは、セシルに家族の愛情が足りていないからだろうか。

「お嬢ちゃん、名前は?」
「私? アーニャ。アーニャ=スヴォロフですが」
「アーニャ。俺は旅の薬師だから、旅先でアーニャの家族の情報が得られるかもしれないし……俺たちと一緒に来ないか?」
「え? それって……私の家族を一緒に探してくれるっていう事ですか?」
「うん。もしも手掛かりとなる情報が得られたら、すぐにそこへ言っても構わない。元々の目的は観光だし。セシルも別に構わないだろ?」

 複雑な表情を浮かべるセシルに話を振ると、

「……お兄さんがそう決めたのなら、構わないよ」

 肯定してくれた。

「ありがとうございます! あの、家事でも何でもするので、これからよろしくお願いしますっ!」

 そう言ってアーニャが上半身を起こし、深く頭を下げると……ワンピースがズレ落ち、小さな膨らみが露わになる。

「あ、さっき脱がしたから……」
「え? 脱がした?」
「違うんだっ! 医療行為だから! 診察するためには胸に触れないといけないから!」
「私が寝ている間に胸を触ったんですか!?」
「違うんだぁぁぁっ!」

 猫耳少女アーニャと一緒に旅をする事になったものの、ちょっと微妙な空気になってしまった。