風呂へ入ってもらったものの、セシルの着替えが無い事に気付いた。
 俺の服は異世界へ来た直後に買ったし、下着類は実家にある物を着れば良いけど、セシルとサイズが違い過ぎる。
 ……もしかして妹――芽衣の服ならサイズが合うのではないだろうか。
 芽衣の部屋でクローゼットを漁ると、Tシャツと短パンに、パンツが出て来た。
 シャツと短パンはともかく、パンツは……でも、他に選択肢が無いので、仕方が無いよな。
 芽衣の服を手に脱衣所へ戻ると、

「お兄さん……どこー」

 びしょ濡れのまま、元々着ていたパンツだけを履いたセシルがキョロキョロしていた。

「ごめん。タオルの場所を言ってなかったね。はい、どうぞ」
「どうぞ……って、自分で拭くの?」
「え? 自分で拭かないの?」

 お風呂へ一人で入らなかったり、身体を自分で拭かなかったりと、文化に違いがあるのは異世界だから? それとも実は貴族の息子だとか?
 今のまま放っておけないので、セシルの身体を拭いていき、

「セシル。パンツ脱いで」
「ど、どうして?」
「びしょ濡れだし、新しいパンツを用意したから……履ける?」
「凄く滑らかな肌触りだね。サイズは少し大きいかもしれないけど、大丈夫だよ」

 大丈夫なのか。いや、持ってきた俺が言うのもなんだけど、女性物のパンツとかは気にしないのか。

「いや、セシル。パンツを脱いでよ」
「お兄さん、脱がせてー。一人で脱いだり履いたりするのは大変なんだよー」

 ……うん、わかった。セシルは貴族の息子だね。
 口には出さないでおくけど、商人ギルドに顔が効いて、学校が無い国なのに本が読めて、一人で着替えが出来ない。
 間違いないな。

「じゃあ、後ろを向いて。足元まで降ろすから足を上げて……うん。それで良いよ」

 目の前に居るのはセシルだけど、真衣ちゃんを相手にしていると思いながら、パンツを脱がせ、濡れていたお尻や脚を拭いていく。
 しかし身体を見て思ったけど、やっぱり筋肉が少ないな。太もももムニムニして柔らかいし。
 これから少しずつセシルの食事の量を増やしていかなければ。
 けど、その割に肌は綺麗なんだよな。スベスベしてるし。これが若さだろうか。

「お兄さん。ありがとー」

 女性用のパンツだからお尻の部分が大きいはずだけど、何故かあまり違和感がないな。
 セシルは栄養がお尻に行っているのか?
 髪の毛をしっかり拭いて、シャツと短パンを着せてみると、

「わぁ。凄く着心地の良い服だね。お兄さん、ありがとう」

 女性向けのデザインだからか、男の娘みたいになってしまった。
 セシルは気付いていないだろうけど、心の中で謝り、俺もお風呂へ。
 暫く湯船でゆっくりした後、身体を洗おうと思ったけど、何故か石鹸が濡れていない。
 ついでに言うと、シャンプーの瓶も濡れていなかった。

「流石に身体を洗ってあげるのは勘弁願いたいな」

 仕方がないので、明日一緒に風呂へ入り、身体の洗い方を教えようか。
 苦笑交じりにお風呂と着替えを済ませ、日本と同じように使えた洗濯機を動かしてからリビングへ戻ると、セシルが一心不乱にラノベを読んでいた。

「セシル。そろそろ寝ようか」
「もう少しだけー」
「じゃあ、次のキリが良い所で終わりだからね」

 無言のままコクコクと頷くセシルを視界の端で確認し、俺は三階へ。
 昨日は疲れていたから一階のベッドで寝たけど、自分のベッドで寝たい。
 一人でお風呂や着替えが無理なセシルだけど、寝るのは一人でも大丈夫だろう。
 そう考えながらリビングへ戻った所で、タイミング良くセシルが声を掛けてきた。

「お兄さん。キリの良い所まできたよー!」
「じゃあセシルはどこで寝る? 俺は三階で寝ようと思うんだけど」
「じゃあ、ボクもー」
「同じ部屋じゃなくても大丈夫だよな?」
「え? う、うん」
「じゃあ俺はこっちの部屋で寝るから、セシルはこっちの部屋を使ってくれ。あと、その部屋の服は自由に着て構わないから。おやすみ」
「お、おやすみー」

 とはいえサイズは合っても、異世界の服とデザインが違い過ぎるし、芽衣がスカート派だったから着られるズボンは無いかも。
 そんな事を考えながら、久々に実家の自分のベッドで眠りに就いた。