連綿と続く草原の一本道。

 リュカとヴァレリィの二人は、互いに寄り添いながら、王都を目指して夜の街道を歩いていた。

 深まりゆく秋の気配。草葉の間からは虫の音。月明かり、星明かり。晴れ渡る夜空に、無数の星が煌めいている。

 ヴァレリィはリュカの腕にしがみつき、そっと彼の横顔を覗き見る。

 さすがに徒歩の旅ともなれば、掛かる日数は馬車の比ではない。

 目を凝らしてみても、行く先に人里の灯りは見えず、このままいけば今夜もどこかで野宿だろう。

 だが、彼女は不思議なほどに辛いとは思わなかった。

 数日前に父を亡くし、姫殿下の行方は知れず、無実を証明する手立ては見当たらない。

 だが今、彼女は祝祭の日を待つ子供のように、どこか浮き立つ気持ちを覚えていた。

『お前が望むならどんなヤツでもブッ倒してやる! 俺がなんとかしてやる!』

 あの時の彼のその言葉を思い浮かべると、頬が熱を持つのがわかる。

 これほどまでに心が浮き立つのは、たとえ国を捨てることになっても、彼さえそばにいてくれれば、それで良いのだと思えるから。

「なあ、旦那さま」

「ん? なんです?」

「大好きだ」

 返事は帰ってこない。

 だが、嫌がっている訳ではないことぐらいはわかる。

 此処に到るまでに何度も繰り返してきたやりとりなのだ。

 この後、彼は大抵何か誤魔化すようなことを言うのだ。

「あっ!」

 そう言って、彼は空を指さし、ヴァレリィはため息混じりに微笑んだ。

「おまえは、また……そうやって」

「そ、そうじゃないんです。ほら、あれ!」

「だから、何……が」

 リュカが指さした先に目を向けると、そこには流星群。

 次々に零れ落ちていく流れ星の中、北東の空に、ひと際大きな赤い流星が真っ赤な尾を引きながら落ちていくところだった。

 思わず「わぁ……」と感嘆の声を漏らした次の瞬間、彼女はピタリと動きを止めた。

「どうしました?」

「いや……なんでもない。なんでもないのだ」

 ヴァレリィは、抱きしめた彼の腕を胸元に引き寄せる。そして、

「まさか……な」

 そう独り呟いて、苦笑気味に口元を緩めた。

 ――幸せにおなり。

 そんな、父親の声が聞こえたような……そんな、そんな気がしたのだ。




 スターゲイザー 少女の残骸と流星の詩 了