「エ、エルサさん!?」
 喜ぶエルサさんの顔を見ていると、ベルンハルトさんの申し出を断るのが悪い気がしてきた。
 今の僕だと、Fランクの依頼だけしか受けられないし、『再生』スキルで伝説品質の品を作って店に持ち込むと出所を疑われてしまうんだよなぁ。
 地道に依頼を受けて、ランクを上げていけば高品質の物を店に流せる伝手もできるだろうけど、それができるようになるまでは何年もかかっちゃうだろう。
 ベルンハルトさんのパーティーに加入すれば、そういった高品質の品を売る伝手には困らないか。
 問題はベルンハルトさんたちが、『再生』スキルの力の話を黙っててくれるかだよな。
 世界に一人しかいないレアスキルの所持者で、そのスキルが成長して複合能力を持つ万能スキルだと知られれば、色んな意味で大事件に発展しちゃうだろうし。
 エルサさんのことも考えつつ、ベルンハルトさんのパーティーに入るメリットとデメリットを考えていた。
「もちろん、君たちのスキルについては他言をする気はない。スキルの能力を世間に隠したいのであろう?」
「ベルちゃんが推測してるスキル能力だとして、そんなスキルがあると世間が知れば、国を挙げての大戦争になりかねないものね。二人がパーティーに加入するしないに関わらず、この件はお口にチャックをする気だけどね」
 ベルンハルトさんもヴァネッサさんもスキルの力に関しては、口を噤んでくれると約束してくれていた。
 スキルの能力を黙っててくれるのか……。
 それなら、ベルンハルトさんのパーティーに入ることも問題ないかな。
 懸念事項だったスキルの能力に関して、二人は他言をしないと約束をしてくれたため、自分の気持ちが彼のパーティーに加入する方向へ傾いていく。
「本当にスキルに関しては他言しないことを約束してくれますか?」
 再度、二人の意思を確認するための問いかけをした。
「私は冒険者である前に商人でもあるからな。商人は取引先に信頼してもらわねば、信用も得られない。私は常に約束したことを違えたら、商人をやめる気でいる」
「わたしはベルちゃんが言うなって言ったら絶対に言わないわよー」
 二人の淀みのない返答に、邪な気持ちを感じなかったことで、パーティーに加入をする決意を固めた。
「分かりました。エルサさん、ベルンハルトさんのパーティーに加入させてもらっていいだろうか?」
「ロルフ君が入りたいなら、あたしは付いていくだけだし、大丈夫だよ」
「エルサ君も賛成のようだな。では、二人とも私のパーティーに加入してもらえるということでいいだろうか?」
「はい、お世話になります」
 ベルンハルトさんが差し出した手を握り返すと、彼のパーティーに加入することを決めた。
「パーティーに加入させてもらいました。なので、僕とエルサさんのスキルに関する能力をお二人に説明させてもらいたいですが、何か壊れ物とかありませんでしょうか?」
「壊れ物だって? たしか、輸送中に割ってしまった陶器の壷があったはずだが……少し待っててくれ」
 それだけ言い残したベルンハルトさんは、居住用の馬車から貨物用馬車へ繋がる扉を開け、奥に消えていく。
 しばらくすると、割れて破片になった高級そうな陶器の壷をもってソファに戻ってきた。
「これでいいだろうか?」
「ええ、大丈夫です。まず、エルサさんの持つ能力ですが、彼女は『破壊』スキル持ちで、素手で触った物質を全て破壊する能力を持っています。今着けている白い手袋はその『破壊』スキルの発動を抑える品物です。エルサさん、悪いけどこれを破壊してもらえるかい」
「うん、破壊するね」
 エルサさんは白い手袋を外すと、テーブルの上に置かれた陶器の破片を破壊していた。
 陶器の破片はエルサさんによって破壊され、淡い光に包まれる。
「光が……。どうなっているのだ」
「破壊スキルも聞いたことないスキルね。なんでも壊せるってすごくない?」
 破壊され粉々の破片になって宙に浮く陶器を見たベルンハルトさんたちの眼が見開いていた。
「そして、この状態になると僕の持つ『再生』スキルが発動する前提条件が整ったことになり、こうやって触れると発動するんです」
 宙に浮かんでいた陶器の破片に触れると、再生スキルが発動する。
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 再生スキル
  LV:5
  経験値:5/36
  対象物:☆陶器の壷(分解品)

 >高級な陶器の壷(普通):94%
 >高級な陶器の壷(中品質):74%
 >高級な陶器の壷(高品質):54%
 >高級な陶器の壷(最高品質):24%
 >高級な陶器の壷(伝説品質):14%
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 普通品質で再構成を選択した。
>高級な陶器の壷(普通品質)
 資産価値:五〇万ガルド
 光がおさまると、テーブルの上には、綺麗に形を取り戻した高級そうな陶器の壷が置かれていた。
「はっ!? 粉々の品物が元の姿に?」
「完全に形を取り戻してて、新品同様になってるわね!?」
「それが『再生』スキルの本当の力です。エルサさんの破壊スキルによって、破壊された物を『再生』スキルで再生できるという力です。この力はエルサさんが破壊できる物に関しては全てにおいて発動する力だと思われます。そして、再生した物は鑑定表示もされるんですよ。その壷はだいたい五〇万ガルドくらいの価値ですね」
 再生された壷を手に取ったベルンハルトさんが、眼帯のついていない方の眼を赤く光らせていた。
 ベルンハルトさんも鑑定持ちかな。
 商人をやっていると言っていたし、鑑定スキルを持っててもおかしくないか。
「鑑定結果もだいたい一致した。ロルフ君とエルサ君のスキルは私の推測をはるかに超えるとんでもないスキルだったようだな……。まさか、壊れた物すら直すスキルが存在するとは……」
「しかもこの『再生』スキルは成長するスキルのようでして……。今は合成をできるようになりました。エルサさん破壊してもらえますか」
 ポーチにしまいこんでいた薬草と毒消し草を取り出して、エルサさんに破壊してもらい、両手で触れる。
>右手:薬草(廃品) 左手:毒消し草(廃品)
>素材合成可能品がセットされました。
>この二つを素材合成しますか?
 了承を意識すると、再生スキルが発動する。
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 再生スキル
  LV:5
  経験値:6/36
  対象物:☆回復薬(分解品)

 >回復薬(普通):94%
 >回復薬(中品質):74%
 >回復薬(高品質):54%
 >回復薬(最高品質):24%
 >回復薬(伝説品質):14%
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 発動した再生スキルから回復薬を選び、普通品質で再構成をしていく。
>回復薬(普通品質)の再構成に成功しました。
>回復薬(普通品質)
 回復量 30
 資産価値:二〇〇ガルド
 再生を終えたことで、手の上には丸い形状に変化した回復薬ができあがっていた。
「というように合成することで、制作過程を飛ばせる能力を成長したことで得ました」
「ちょっと待ってくれたまえ。制作過程が飛ばせるだと!?」
「素材さえあれば、回復薬が即座にできちゃうとかになると、薬屋さんも商売あがったりねー」
 手のひらにでき上った回復薬の丸薬を見て、ベルンハルトさんたちは目を丸くして驚いていた。