会いたい気持ちと、ありがとうの言葉と、何気ない笑顔が大好き。偶然、突然。結ぶ必然、運命の鍵は心を試す。本物の愛は宿命となり、何度も深まり熟成していく。貴女はどうして、この時代に居たのか。長い時間を掛けてこれから、その謎を解いていきたい。
その日は夏休み終了六日前、八月二十五日。天の誕生日だった。
恋人になってからの初めての誕生日は、遊園地に誘った。この街には市内の山の上に、なんと遊園地がある珍しい場所だ。俺ら二人は、夕方まで全力で遊びつくした。
夕暮れが天の頬を赤く染めたから、このままずっとオレンジに染まっててほしいと願った。
それでも空はやがて満点の星が出て、約束されたように新しい朝はやってくる。
この世界はでたらめな事ばかりだけれど、空模様だけは俺らを決して裏切りはしないのだ。
俺は天に左手を向けるように促した。彼女は少しはにかみながらも、小さな手のひらをこちらに差し向ける。これから先、どんなことがあっても俺が守っていくと決めた手だった。
彼女の手をそっと握ると、俺は自分の口元に近づける。皆結希さんみたいな気の利いたことなんて出来やしないけれど、気障ったらしいことなら俺にだって出来る。
天の薬指の付け根に俺は小さくキスをすると、ポケットに入っていたリボンを取り出した。先月、皆結希さんさんに貰ったマカロンの包みに、結わっていた小さなリボンだった。
口づけの温もりが消えてしまわないうちに、俺は彼女の薬指にリボンをキュっと結んだ。
本当はほたるさんみたく、前世に因んだものが良いとか思ったけれど。この約束には前世なんか関係ないし、皆結希さんに貰ったものなら効果は百倍くらいあってもおかしくはない。俺は可愛く狼狽える自分の恋人の目を見て、はっきりと告げた。
「この指は押立宇宙が予約しました」
青い空は天だけど、黒い空は宇宙だ。
宇宙は無限、三六五日いつでも胸騒ぎが起こってもおかしくない。
名前が宇宙の俺からすると、天と居ると何でも出来そうな気がしたんだ。
