まず初めに、藍さんのこの後の予定を尋ねた。
予定も無いし、家に誰も居ないので、ダラダラの予定だったとのことだった。男爵の美しい一人娘が家でダラダラする光景を想像したら、笑いが止まらなかったので天に頭をはたかれた。
クロは確か家に居た筈だったので、ギムレットのもとに案内しようかという提案をした。藍さんはメアリーに負けないくらい、瞳を宝石のように輝かせた。
アオさんもこんな表情が出来るのだとしたら、確かに見間違えてもおかしくは無いけれど。少なくとも俺は見た試しが無い。
というか、今思い返してみると。アオさんの自由奔放な性格って、どっちかっていうよブロッサムに近いような気がしてきた。
自分もそんなに大きくない癖に、可愛くて小さい女の子が大好きで。でもアオさんが魔導士ギルド長だったら、きのみさんは何者なんだよという話になる。
どっちかって言えば、今のきのみさんがブロッサムらしくないのだ。今さら魔導士ギルドの隊長の自覚が出てきたのだとしたら、何もかもが遅すぎる。
我が家のある東京サイドに入るには、徒歩かバスの二択になる。炎天下の中歩かせるのは酷だから、バスを使おうかって提案をした。
「メアリーは身体が弱いものね」
俺ことクラウディアの台詞に、藍さんと天は同時に驚いた顔をした。
「クレア……。もしかして、メアリーの病弱設定。ずっと信じていたのか?」
天がクレアと呼んだので、押立宇宙ではなくクラウディアに話掛けているに違いない。俺もクレアの記憶で、天ではなくルースの質問に答えた。
「……設定って?」
俺の台詞に天が小さく噴出した。隣の藍さんが真っ赤な顔になる。
「クレアは病弱じゃないよ。ブロッサムから聞いたんだが、時々、屋敷を抜けて山脈に行ってたらしい」
「はぁ、嘘だろ⁉」
天とボルドシエルの思わぬ言葉に、俺は押立宇宙の口調になってしまった。クラウディアの記憶を持ってしまったが故に、それだけ驚いたのだ。
まず、メアリーは母親を亡くしている。爵位を持っているにも関わらず、父親も戦場に出ている。独りだけれど、家では周りにはメイドが仕えているし、なんか気障ったらしい婚約者も居た気がする。クラウディアと違って、病弱だから囲われているって話だったけれど。
仮にそうでないとしても、あれだけのメイドがメアリーの外出なんて許す訳が無い。増してや山脈って、何しに行っていたんだよ。
「もう、その話はいいじゃない!」
メアリーが可愛く頬を膨らませて抗議する。白髪のラグーンと称されていても、中身は子供っぽい可愛さがあるのは今も同じようだった。ラグーンって何だったっけな、今でいうアフロディテみたいなものだっけか。
「それに今のわたしは、メアリーやのーて大丸藍! 歩くんのやって、いけますし!」
藍さんはそう言って無い胸を張ると、少ししてから顔を赤くにした。いつぞやのアオさんより、真っ赤っ赤だ。
もしや、アオさんと同じかって思った。自分がなまっていたのに、気づいてしまったのか。
「……どっち? 案内して」
目を点にする天から真っ赤な顔を背け、藍さんは裏返った声で言った。
アオさんは自分がなまってたのを認めるタイプだけれど、こっちは逆パターンか。
それ自体が可愛いって思うのに、今のメアリーにアオさんみたいな反応されると、胸に何かが刺さりそうだ。天の前だし、本当に自重しないとって俺は思った。