脳に映ったのは、西ヴァネット・シドル。アードベク自治区の庭園。

 白い椅子に腰かける私の膝には、泣き崩れている女の子が居た。この自治区の男爵の娘、メアリー・ボンべイサファイアだ。

 陶器のような肌、艶やかな唇。白銀の髪のラグーンと評される美貌は、繊細で儚い美しさがある。でも今の彼女は、碧玉のような瞳から宝石のような涙を流していた。

 そうだ。この場面は、私がボルドシエルが亡くなった話をメアリーに伝えた時だ。

 本当は彼女とギムレットが、受ける筈の呪いを振りかけられたこと。そのせいで彼が、自ら命を落としたこと。自分には何も出来なかったことを、彼女が罪の意識に苛まれていた。

 私はそっとメアリーを抱きしめる。後ろで鳥族の魔法使いギルド長が、瞳を輝かせた。空気を読んでと私が睨み付けると、ブロッサムは悪びれた顔で自重したようだった。

「わたしは……ギムレットと、約束したの」

 メアリーは涙を流しながら、嗚咽交じりの声で言う。いつもの小鳥のさえずりのような声が、台無しだってわたしは思った。

「来世で……生まれ変わったら、一緒になろうって……」

 ブロッサムの魔法のお陰で、キスを会う口実には出来ていたけれど。そういう約束みたいなものは、全く交わさなかったのを思い出す。

 こんなことになるのだったら、私も彼とそういう誓いを立てておけばと後悔した。

「だから今度は、クレアの為に空に祈るわ。蒼穹でも、星空でも」

 メアリーは自分の胸に手を当てて、すべてを慈しむような声を出した。

「どうか、来世では彼と幸せになりますように」

 今度はこちらの方が感極まって、メアリーを抱きしめて泣き出してしまう。美しい少女は、私の頭を優しく撫でた。

「これからの未来でまた会いましょう」