駅に戻ってくる頃には、ゴミ袋も半分は埋まっていた。
本当はゴミ袋を、パンパンにしたかったんだけれど。そうなる前に、俺達の脳がカンカン照りになってしまう。
街を一周したら全員で、駅前ではなく学校のような場所へと到着した。此処は大野さつきさんが通う中学で、小学校と一貫となっているらしい。道理でうちの中学より、校舎もグラウンドも大きいわけだって思った。
校庭の隅には何人かの大人と、小中学生がゴミ袋を持って集まっていた。代表者の大野さつきさんがゴミを渡しに行くと言ったので、皆結希さんがそっと彼女の荷物を持ち着いていく。さり気無い気配りとか、本当に見習うべきって思った。
彼らが列に並んだので、俺と天は手持無沙汰になってしまう。参加者に見知った顔が無いかなって思い、天と二人で人々を観察する。
親子で参加している人が殆どだけれど、中には我々のように友達同士で参加している人もいた。ゴミ袋がパンパンの人も居たけれど、彼らはどういう魔法を使ってゴミを増やしたのだろうか。
「なに、その傍迷惑な魔法」と天が笑った。
確かに仮にあるのだとしたら、俺らの中で一番使えない魔法だって思った。
嫌がらせにしか使えないじゃないか、って思ったけれど、共痛覚も似たようなものじゃないか。もっとも、それで俺は天と出会えたのだから、嫌な事ばかりでも無いのかもしれない。
「……あの」
聴きなれた声がしたので、振り向いてから違和感を覚えた。声の主は、ここの中学校のであろう制服を着た普通の女の子だった。見覚えの無い子だったのに、何で聴きなれたって思ったのか一瞬だけ分からなかった。
にも関わらず。女の子を見た瞬間、俺の脳みそが大きく回った。
目の前に居る少女は、まるでアードベク自治区の男爵の娘と瓜二つだったのだ。
灼けるように、脳みそが熱くなる。アードベク自治区って何だ。男爵って、意味が分からない。
まるでクレヨンを何度も塗り重ねるように、頭の中にヴァネットシドルの光景が次々と浮かんでくる。
自分の名前が押立宇宙というのを、何度も忘れてしまいそうになる。
俺は隣に居る恋人の手を握ろうとしたけれど、人間の女性の手であることに驚いた。
私の恋人は、獣人の男性だった筈なのに。