住宅街の端っこに、すごい小さな公園があった。

 道に沿うように縦長で、ベンチ一つと小さな滑り台。下にバネがついたウサギの乗り物があり、奥は雑木林になっている。馬でもなく鹿でもなく、牛でもなければ豚でもない。人が乗りやしない動物を、なんで採用したんだろうか。

 クラスヒル小公園だって、大野さつきさんが言った。こんなドッジボールもまともに出来なさそうな小さな公園なのに、高級マンションのような立派な名前がついていた。ウサギ公園でいいじゃないか。

 遊具が少ないから見た目には分かりやすいけど、一応ゴミが無いか入ってみる。地面は舗装されてなく、細かい砂利になっていた。

「ソラくん、ソラくん」

 何かを見つけたのか、しゃがんだまま皆結希さんが俺を手招きした。天と一緒に彼の傍に近寄ると、思った以上に面白いものを発見していた。

「これ、ウンコだよな?」

「はい、ウンコですね」

 俺は皆結希さんと、顔を見合わせて大笑いした。一瞬、砂の塊か何かかと思ったが。見事に犬のクソだった。時間が経っているようで、カラカラに乾いて匂いもしなかった。

「ソラくんは犬派? 猫派?」

「猫派です」と俺はすかさず答えた。

「オレも猫派だ。犬はこうやって、ウンコするしな」

「猫もクソくらいするでしょう」

「だよな」

 犬のクソを前に馬鹿な男二人が、馬鹿みたいな会話を交わして笑った。男と言うのは非常に残念な生き物で、何歳になろうともクソで笑えるクソ野郎なのだ。振り向くと、呆れ顔の天と、苦笑いの大野さつきさんの姿があった。

「んじゃ、次行くか」

 皆結希さんは何事もなかったかのように、普通に立ち上がり乾いたクソを拾ってゴミ袋に入れた。俺を含めた三人が、ピタリと動きを止めた。

「皆結希さん?」

 俺が言うと「どした?」って感じで、普通の表情で振り返る。天と大野さつきさんは、驚きの表情のまま固まっていた。

「よく触れますね?」

「何を?」

 あっけらかんとした表情だったので、本気で俺が何を言っているのか理解してないご様子。敢えて言いたくないけれど、さっきまで連呼していた言葉を使った。

「ウンコ」

「……軍手だし?」

 軍手だとしても、俺は嫌だ。ビニール手袋と違って、通気性のいいものなんだぞ。どんな顔をしていたのか分からないけれど、俺の表情を見た皆結希さんは満面の笑みをこちらに向ける。

「ソラ、握手しようぜ」

「無理無理!」

「無理無理!」

 手を差し出した皆結希さんに、俺と天が同時に拒否反応を示した。同じ名前だから、彼女も自分だと思ってしまったのだろう。

 散々大笑いした後、皆結希さんは軍手をゴミ袋に捨てた。

「冗句、ジョーク」って笑っていたけれど、全くジョークの意味が分からなかった。クソを触った事実は、冗談でも何でもない出来事だ。

 大野さつきさんに促され、皆結希さんは公園の水道で手を洗った。本当に俺は凄い人と知り合ったんだな、と心の底から思った。

「というか、女の人の前で平気でそんな事するって、どうなんですか?」

 天が珍しく、人に冷たい目を向けている。本気でドン引きしたご様子だった。皆結希さんはゲラゲラ笑いながら、大野さつきさんからハンカチを受け取った。よくハンカチ貸せるな、てオレは思った。

「オレ、前にタマちゃんの前で、もっとひどい姿見せてるし」

「もっとって何ですか」と俺は聞いてみた。聞いていいものかとも思ったけれど、皆結希さんから振ってきた話だ。

「吐いた」

 家族じゃなきゃ、もう会わす顔も無かったよ、と流石の皆結希さんも苦い顔をした。

 俺は家族どころか、恋人の前で吐いているんだけれど。天の顔を見ると、なんとも言えない表情を皆結希さんに向けていたのだった。