改めて、天に皆結希さんを紹介した。

 ジャッカスさんの友達で。と言った瞬間に「大親友の間違いだ」と、ジャッカスさんに訂正された。皆結希さんは一言、気持ち悪いと言っていた。確かになんか、気持ち悪い。

 携帯電話にメッセージが入った。相手は天からで「前世がどうって話は伏せた方がいいのかな」と、記載されていた。

 先ほどの話から察するに、ほたるさんは皆結希さんに会ってないだろうし。南タマキさんも、その辺りの話をしていないようだった。俺は親指を立てて、彼女に合図した。天も右手で輪を作って、オッケーのサインを出していた。

「皆結希さんは恋愛経験が豊富だから、実は天のことも相談してたんだ」

 俺が言うと、天は照れくさそうに微笑んだけど。何故か皆結希さんと、ジャッカスさんまで首を傾げていた。

「いや。別にオレは、そんな豊富じゃねえよ?」と皆結希さんは言った。

「お前、上谷戸一人だけだろ?」とジャッカスさんが言った。

 聞きなれた名前に、俺はコーラを器官に入れてしまいそうになった。珍しい苗字だし、もしかしてって思った。

「上谷戸って、え? きのみさん?」

 きのみさんの苗字は上谷戸で、クロは彼女を苗字で呼んでいるので、特に印象深かった。上谷戸一人だけ、とジャッカスさんが言った意味。もしかして皆結希さん、きのみさんと付き合っていたのか。

「きのみって誰?」と皆結希さんは不思議そうな顔で言った。知らないのならば、違う人なのかもしれない。あんな名前の人が他に居たっていうのも、凄いって思わざるを得ない。

「上谷戸の妹だよ。タマちゃんと同じクラスじゃなかったっけか」

 ジャッカスさんが肉を齧りながら、驚くべき話をした。コンロの向こうに立っていたので、火を見そうになったから目を逸らした。

 どうやらジャッカスさんは、きのみさんも知っていたみたいだ。今の話を整理する。きのみさんは、上谷戸って人の妹。ジャッカスさんは皆結希さんに、上谷戸一人だけと言った。つまり、それって。

「皆結希さんって、きのみさんのお姉さんと付き合っていたって事ですか?」

「そうなるな」とジャッカスさんが笑った。

「昔の話だ」と皆結希さんがつまらなさそうな顔をした。

 南タマキさんが皆結希さんの従妹だっていうのにも驚いたけれど、これも同じくらいの衝撃だった。本当にこの人は、底が知れないって思った。

「え、いつですか?」と俺が聞いてみると、皆結希さんは困った表情を浮かべた。自分の飼っていない猫に、爪を立てられたような表情だった。今更ながら、俺は突っ込んだ質問をしてしまったと思った。

「……すみません」

「あ、いや、気にすんな」って皆結希さんが言った。何故か分からないけれど、後方でジャッカスさんが馬鹿笑いをしていた。皆結希さんは不機嫌そうに、ジャッカスさんの尻を蹴飛ばした。それでも、馬鹿笑いは止めなかった。