家を出て坂を下って、階段を上る。公園に入り、歩道橋を越えると、すぐにテレビ局が見える。
両側が緑の丘になっていて、真ん中が石畳の遊歩道。左手のテレビ局を素通りすると、再び歩道橋になっていて、駅が見える。
歩道橋を渡ると、ロータリーに降り立つ。思わず、左手のビルに目を向ける。ドーナツ屋の店舗が目についた。
あそこでクロ達と前世の話をした日もあるし、ジャッカスさんに勇気づけられた日もある。ドーナツが食べたくなった。けれども、今日は関係の無い話だった。
携帯電話から通知音が鳴る。画面を開くと、可愛い彼女からで。すぐには来れない、っていう話だった。
そういえば、天に協力しろって言ったけれど、現時点で何を協力して貰えばいいのか考えてなかった。
もしかして、無駄足にさせてしまうのかもしれない。もしそうなったら一つ貸しにして貰って、後で彼女の希望を何でも聞いてあげよう。
再び通知音が鳴る。今度は、ほたるさんからだった。ロータリーにある、オレンジ色のタクシーの中に居るのだという。
集合場所が駅前って聞いた時、大丈夫かって思ったけれど。やっぱり、隠れて行動していたのか。
収録後だって話だし、変装している時間も無かったのかもしれない。そうなると、姉はもう家に帰っているのかね。あまり興味も無かったので、俺はタクシーを探してみる。
オレンジ色のタクシーは、すぐに見つかった。周りがクリーム色のタクシーだったから、本当に分かりやすかった。
近づいてみると、いきなりドアが開いた。後部座席の奥で、眼鏡をかけたほたるさんが手招きをしていた。俺は首を左右に振った。
「まだ、役者が揃っていません」
ほたるさんは不思議そうな顔で、首を小さく傾げた。俺と後もう二人、このタクシーは五人乗れるのだろうか。
「ソラくん!」
小型犬のような声に振り向くと、南タマキさんがこちらへと小走りで近づいてきた。役者は揃った。と思ったけれど、俺の見間違いでなければ、もう一人が居なかった。
「……わかば先輩は?」
少し切れていた息を整えて、南タマキさんは気まずそうな顔になる。
「えっと、その……急だったので」
ごめんなさい、と彼女は大きく頭を下げる。やっぱり、急過ぎたのか。実はわかば先輩にも、来てもらうようにお願いしていたのだった。
これで親子の運命の再会、って奴を企んでいたんだけれど。余計な真似をするなって、神が指示したのかもしれない。
「……タマキちゃん?」
振り向くと、ほたるさんがタクシーから出てきていた。驚きの目をこちらへと向けていて、口はぽかりと開いていた。
「……ほ、ほたるさんですか?」
背中から南タマキさんの声が聴こえた。振り向くと、彼女もほたるさんと似たような顔をしていたんだ。