「向こうは置いておいて、クロの気持ちは……どう?」

 そう言ってから、思わず息を呑んだ。

 こんな時、本当に魔法が使えたらいいって思った。従兄は時々、何を考えているか分からない時がある。彼は顔に出ない性格なんだ。

 クロが口を開くまでの時間が、とてつもなく長く感じてしまった。それでも俺は、固唾を飲んで続きを待ち構えた。

「会いたい……かもな」

 肩の荷が下りたような瞬間だって思った。緊張していたのかもしれない。俺はひたすら、バカでかい安堵の息を吐いてしまった。

「もしかして、ソラ」

 クロが俺を真っ向から見据えて、再び心配そうな目を向ける。

「親父、死んだの。まだ自分のせいだって、思っている?」

 魔法を使われたのかもしれない。今の俺の状態が何色になっていたのかは分からないけれど、クロの言葉に大きく心臓が動いた。

「それはソラが、気にすることじゃないんだぞ」

 それはもう色々な人に、何万回も言われてきた。うるさいくらいに、心がざわめいてしまっている。落ち着きを見失いそうになり、俺はクロから目を逸らしてしまう。

 どうしたって、火を見る度に当時の光景が浮かんでしまう。でも、そうなった時に何よりも一番嫌なのは、クロがそれを気に病むことだ。

 本当は、誰にも心配なんてされたくない。

 まるで俺が可哀想な人間みたいじゃないか。この間、風邪をひいた時もそうだった。クロの心配そうな瞳が、憐れんでいるようにも見えてくる。

 従兄だって、そんな気持ちは欠片も無いのを知っている。けれど、こんな考えを持ってしまう、自分が一番嫌いなんだ。

 俺の状態がどうなっていたのは分からないけれど、クロは申し訳なさそうな顔で押し黙ってしまった。嫌な空気、だと思った。従兄にこんな顔させる為に、来たわけじゃないっていうのに。

 もう寝よう、後は野となれ山となれ。変に開き直って、俺は自室へと戻っていってしまった。

 電気を消して、ベッドに倒れこむ。

 罪悪感の塊が、俺の心を何度も蹴り飛ばす。痛くなりそうな頭を押さえ、暗闇の中で目を閉じる。ゲームセンターよりうるさい心臓が、ドクドクドクドク鳴っていた。

 このまま何も考えずに、寝てしまいたい。脳みそがグルグル回って、睡眠の邪魔をしてきている。喉がカラカラなのに、何も通る気配が無い。外はセミが鳴いていて、部屋の中はエアコンの音がする。それでも、心臓の音を邪魔する程度には至らない。

 今更だけれど、俺は天にトラウマの話をしたのを後悔し始めた。まるで同情してくれって、言っているようなもんだって。自分の弱みを見せて、憐れみを誘うような行為だったんじゃないかって思ってきた。

 暗闇の中で、俺は歯を食いしばる。いや、あれで良かったんだ。って開き直ろうともしたって、どうしても昼間の醜態が頭に浮かんでくる。

 彼女の部屋で吐くとか、ありえない。死にたい。死ぬなんて簡単に口にしたくはないけれど、脳にこびりついた記憶がそれを許しちゃくれなかった。

 ところどころ隙間の開いた心に、後悔って名前の魔物が襲ってくる。逃げるな、立ち向かえ。俺は男なんだから、背中を向けてはいけないんだ。

 エアコンが効いているにも関わらず、嫌な汗が流れてくる。俺はもっと、強くあるべきなんだ。本当はトラウマなんて払拭して、火にだって目を背けずにいないと駄目なんだ。

 気にしない、気にすんな。って言うのが、もう気にしちゃっている証拠だ。衰弱する神経、摩耗する精神。それでも明日はやってきて、日はまた昇っていくんだから。