どこか別の店にでも入るのかと思いきや、やってきたのは天の家だった。
え、入っていいのかよ。予想だにしなかった展開に、俺の声は裏返っていた。姉は居るけど自分の部屋なら大丈夫、と彼女は言った。
俺は天に姉が居るという方に、驚きを隠せなかった。しっかりした性格だし、ワガママも言わないし。なんか、妹って感じじゃない。
「光が妹しすぎなのよ」と相原の名前を出して、天は笑った。確かにあの光魔導士は、ザ・妹って感じで。末っ子気質は、誰よりも強いって思った。
お邪魔しますと玄関に入り、すぐ左手の階段を上がる。家に入ったのは二回目だけれど、彼女の部屋に行くのは初めてだ。来たのも告白した時以来だし、その後は逃げるように帰っちゃったし。
部屋が三つあって、一番左のドアだった。姉以外の女の子の部屋に入ったことはないけれど、梨花の部屋って全体的にピンクだった。エロい意味ではなく、壁紙や家具が全体的にピンク色なのだ。
けれど、天の部屋は全然違った。勉強机に本棚にタンス、俺の部屋と比べると物が無いように思えた。
おおよそクロがそうなように、必要最低限のものしか出していないのだろう。だけれどベッドの方を見やると、国民的人気キャラクターである白黒犬のヌイグルミが置いてあった。あれを抱いて寝ているのかと思うと、代わりたいくらいだと思った。
お茶か珈琲か聞かれたので、ミルクが入っているなら何でもいいって答えた。俺は緑茶に牛乳を入れて飲む癖もある。甘党にも程があると、天は花を咲かせたように笑った。
湯呑とは別に牛乳の入ったグラス、ついでに角砂糖まで持ってきてくれた。気の利く彼女に感謝しながら、俺は角砂糖を入れ始めた。
「彼氏が糖尿病とか嫌なんだけど?」
流石に見ていられなかったのかもしれない。角砂糖三つ目の辺りで、天が俺の手を掴んで止めた。
別にネタとかジョークでやっていた訳じゃないけれど、やっぱりこんなに使っちゃ駄目か。俺はしぶしぶ、砂糖の入った瓶を手渡した。
出来るだけ甘い方がいいっていうのは、れっきとした事実なんだ。お茶をくるくる回してから、ミルクを注ぎ入れた。
「それで、ホイップのほたっちが、どうしたの?」
カップを手にテーブルを挟んで、改めて天が俺と向き合った。何処から説明したものか分からないので、一番初めからしてみよう。
わかば先輩を知っているかを聞いてみた。あれから一度も会ってはいないけれども、何故かこの話の中心人物だからだ。彼女の答えはノーだった。
そりゃそうだ。俺もそうだったように、別の学校の先輩を知っている筈がない。その先輩に恋愛相談をして、良い助言を受けれた。その結果、今こうして天と一緒に居られるんだ。
「……相原先輩のお陰でも、あるんじゃない?」
天がジャッカスさんの方を上げたので、何故か少しやり場のない気持ちを覚えた。
とりあえず、気にしないようにしよう。昨日、ほたるさんに会った時、改めて苗字を聞いてみた。
若葉田っていう名前は、わかば先輩と同じだった。下の名前を出してみたら、彼女は先輩の従妹だと判明した。暫く会っていないから、話を聞かせて欲しいと言われた。二人で、昼食に行く流れになった。
「……ふーん」
天がどこか冷たい声を出した。とりあえず、気にしないようにしよう。