その後は普通にウインドウショッピングだった。

 本や文房具を見るって、凄い健全なデートだって思った。世の恋人達からすれば、キスから始まった関係ってのは、何処か違うかもしれないけれどさ。

 お昼は普通にレストランで、夏休みって割にはそこまで混んではいなかった。もしかしたら、皆どっか行っているのかもしれない。って思ったら、彼女もそういう予定があるのかもって可能性が出てきた。

 食後のドリンクバーで一休み。旅行とかの予定はあるのか、俺は尋ねてみた。彼女は首を左右に振った。

「あたしのうちは、ここが実家だから帰省とかは無いよ」

 むしろ、こっちにその予定は無いのかと聞かれた。天の問いに、俺は首を左右に振って答えた。

 自分の親父は単身赴任しているし、押立の実家はクロの家。じいさんもばあさんも、既に亡くなっているのだ。母方の実家は東京の埼玉サイドにあるけれど、梨花が忙しいので俺だけ帰っても仕方がない。

 つまり夏休み中、俺はいつでも天に会えるって話になる。

「毎日は無理だよ。……でも痛いときは、ちゃんと会いにいけるようにするから」

 痛いに愛をつけて「会いたい」というのは、如何なものかとも考えたが口にはしなかった。

 実は昨日も、会おうかという話は天から持ちかけられていた。けれども梨花の、あれやこれやで時間が取れなかったんだ。

「そういえば、梨花さんの影武者したんだって?」

 天は小声で、楽しそうに言った。昨日、彼女に会えなかった理由は、きちんと伝えてある。

「うん、まぁ……な。久々だったし、メンバーにはバレバレだったけど」

「久々って、今までに何度かあるってこと?」

 いきなりの自分の失言に、思わずコーラを吹いてしまいそうになる。

「ち、違うぞ。あいつに頼まれてだな」

 まるで俺に女装癖があって、ダテリカの格好をするのが好きみたいじゃないか。妙な勘違いは出来るだけ避けたいのは、彼氏として自然なんだろう。それでも天は、クスクスと楽しそうに笑っていた。

「……そうだ。ホイップのほたっちって、知ってる?」

 天は紅茶を口にして、笑顔で小さく頷いた。喜怒哀楽で言えば、楽って感じだなってのが見て取れた。

「どうやら、彼女も前世持ちらしい」

 俺の言葉を聞いて、彼女の雰囲気が変わった。今まで、楽そうにしてたけれど。一瞬にして、面持ちに緊張感が生まれた。

「……場所、変えよっか」

 天が言ったので、ヴァネットシドル関係じゃないと説明した。彼女は瞳を丸くしたが、やはり首を左右に振った。

 そうでなくてもアイドルだし、ココでするのは駄目じゃないか。確かに言われてみれば、その通りだった。俺は朝から、失敗ばかりしている。