そんなこんなで俺たちは、公園下のちょっとしたショッピングモール的な場所へと足を運んだ。

 初デートの場所を彼女に決めさせるなんて、俺は本当にあほっしいだ。

 それでもペットショップに入ってみようと声を掛けると、彼女の表情は笑顔に戻る。天の前世が獣人だし、動物好きなんじゃないかって。そんな勘は、どうやら当たっていたようだった。

 中に入るなり、彼女は小型犬のケースへと向かっていった。一番初めに目を引いたのは、もっさもっさの暑そうな毛の犬だった。涼しい店内でスヤスヤと寝こける姿は、まるでヌイグルミみたいに見えてくる。

 犬派か猫派って聞かれたので、俺は普通に猫派だって答える。天はしかめた顔になる。

「あたしの前世が犬だって、知ってて言ってるの?」

「だって俺が好きなのは、犬じゃなくて天だし」

 普通に思っていることを言っただけなのに、いきなり彼女が俺の脳天にチョップをかました。痛みは全然無いけれど、驚きで思わず屈んでしまった。

「……そういうの、ずるい」

 詰まったような声。見上げてみると、天は何故か真っ赤な顔をしていた。

「ずるいって、何が?」

 俺の質問にそっぽ向くと、天は逃げるように店を出ていってしまう。

 また何か、余計なことを言ってしまったのかもしれない。

 慌てて天を追いかけると、モールの外に出た瞬間に立ち止まる。

 歩道橋の下、彼女の背中に声を掛ける。その瞬間、いきなり彼女は振り向きざまに俺を抱きしめてきた。

 梨花とは違うシャンプーの香り、家族とは違う温もり。気温は暑いんだけれど、それでも暖かいと思うのは何故だろうか。

「あたしの方が、宇宙よりもっと大好きなんだから」

 これ以上、好きになったらどうすんの。耳元で聴こえた声に、俺はこっちの台詞だって言った。

 ここで初めて、彼女は俺を名前で呼んでくれたのだった。