白玉が抹茶と合うのって、旨いの当たり前でしょう。
クレープの抹茶風味がチョコの甘さを引き立てた上で、白玉のモッチモッチの食感がモチモチのモチモチ。
クレープと白玉って、あまり見ない種類の組み合わせだけれど。そもそも甘いものが、白玉と合わない訳がないんだ。
特に口止めとかされて無かったのを思い出し、先程のほたるさんとの会食の件について俺は話した。
従兄が居て、小さい頃から会ってないから知りたい。何でもいいから教えて欲しいって言われたので、俺はわかば先輩が恋愛相談に乗ってくれた時の話をした。
彼の言葉で元気が出たって、言うと満足そうな表情をしていた。そこまで説明したけれど、とりあえず前世の話は伏せておいた。
そして気づけば、南タマキさんが引きつった表情で、真っ青な顔になっていた。さっきまで真っ赤だったのに、まるで信号機じゃないかって思った。
「ど、どうしたんですか?」
「え、うん。大丈夫……、うん。はい」
どう見ても、大丈夫そうな表情じゃないし。どう聴いても、大丈夫そうな口調じゃなかった。
「それより、他に何か言ってた?」
その後って、前世の話して。わかば先輩の家庭事情を言われただけだし、そこは言わない方がいいかもしれない。後は何か、何かって何だ。
「わかば先輩を、カッコいいって言ってましたね」
「み、皆結希さんの事を……ほたるさんが?」
南タマキさんは、今までに聞いた事の無いような種類の声を出した。よく分からないので、俺は普通に頷いた。
「急に用事が……」
弱弱しい声で南タマキさんは伝票を取り、肩を落として会計へと行ってしまった。しばらくすると、こちらへと戻ってきて。
「それじゃ、ゆっくりしてってね……」と、か細い声で言った。このまま帰したら、まずい気がする。
「送ります」
俺が言うと、南タマキさんは小さく首を振った。一人にして欲しいという。それでもやっぱり心配なので、携帯電話を取り出した。
「これが俺の連絡先です」
画面を見せると、彼女も携帯電話を取り出した。少し触ると、南タマキさんからメッセージがこっちに届く。ほたるさんについて、何かあったら相談してね。って感じの内容だった。
俺は小さくお辞儀して、彼女の背中をそっと見守った。
考えてみれば、きのみさんやアオさんと比べて、俺は南タマキさんを何も知らないなって思った。
どちらかと言えば、彼女は稲瀬さんっていう中学時代からの親友が居て。その人と比べると、クロや梨花と会う頻度は低い。
わかば先輩を中心として、父方の従妹と母方の従妹と知り合ったのも何かの縁か。両方とも見知った存在ではあったけれど、立場を知ったのは初めてだ。
俺に何か出来ることは無いか、って考えてみる。
だけれど、ほたるさんも南タマキさんも、具体的に何がしたいのかは全く分からない。
いまいちど、わかば先輩に会う手段は無いのか。でも、余計な真似はしない方がいいのか。あの時、本当に必要だったものは、今でも心の中に残っているんだ。
くすぶる。
そんな単語が頭を占め。俺は携帯電話を出して、その意味を調べてみた。物が燃えないで、煙ばかり出る。煙のすすで黒くなる。どちらも火にまつわる意味だったけれど、最後は一文は意味が完全に違った。
物事が表に現れず。また完全に解決しないまま、続いている。
俺の中で、ほたるさんとわかば先輩の件は、完全に解決しないまま、続いていた。足りない旋律、書き直せない。
時とはなんて無情に、誰かを引き裂いてしまう。焦ることは無い、と余裕ぶった台詞も悲しくなる。俺は天の連絡先を開いて、メッセージを送信した。