俺には勿体ないくらい、献身的な彼女だと思った。
毎朝、俺の様子を見に来ては、調子が悪いかどうかを伺う。今日みたく痛いのが分かっている時でない場合でも、天はしきりに体調を気にしてくれる。
彼女だから当たり前だって言うけれど、やっぱり共痛覚が原因に決まっている。あれから何度も「前世の魔導士」である、きのみさんに解決方法を聞いてはいるけれど。前世でも見つからなかった方法を、今世で見つけるのは更に難しいって言われてしまった。
俺は別に痛かろうが何だろうが、どうでもいい。問題なのは、それを気に病む彼女が不安で仕方ない。
前世の天は、それが原因で命を絶っている。もしかしたら、このままだと同じ結末を選んでしまうんじゃないんだろうか。
せめて俺が前世の記憶を欠片でも持ち合わせていれば、何らかのヒントはありそうなのに。俺は大きなため息をついた。
クロでも駄目、天でも駄目、きのみさんでも駄目となれば。俺は一体、誰を頼ればいいんだろうか。
いっそのこと、アオさんに聞いてみたらどうだろう。これを切っ掛けに前世の事を思い出して貰えば、クロの悩みも晴れて一石二鳥だ。
なんて思ってみたけれど、それは一番やってはいけない。
彼女がクロの前世の想い人か確認するな、と従兄直々に釘を刺されている。その上それをやってしまうと、アオさんも俺と同じ悩みを抱えてしまう。そんなのは、火を見るより明らかだ。俺は火は見れないけどさ。
「まだ痛む?」と話しかけてきたのは天だった。心配そうな表情に、俺は慌てて取り繕う。
「違う、大丈夫」
そうは言っても、彼女の表情は変わらなかった。
「じゃあ、何か悩み事?」
その台詞に、俺の心臓は少し縮み上がる。貴女の事で悩んでますなんて言ったら、ますます天の頭が痛くなるだけだ。せめて明日からの夏休みくらい、笑顔で迎えさせてあげたい。
「ええっと……だな」
何か適当な言い訳をしようとしたけれど、上手く頭が働かなかった。俺は目だけ動かして何か探す。時計、黒板、机、相原光。
「あっ……」
何故か相原と言いかけた口を噤んで、新しい言葉を用意した。
「甘いものっ! ……が、食べたくて!」
天が呆れた顔をした。どうやら、適当に誤魔化したはバレバレのようだった。
「甘いもの?」
俺の台詞が聴こえたのか、少し離れた場所から相原がこちらへと近づいてきた。
「おっしい甘いもの食べたい気分?」
スイーツユニオンの光魔導士が、瞳を輝かせて現れた。せっかくなので、俺も便乗させて頂こう。
「そう、甘いもの食べたいな!」
「いいね。天と三人で、甘いもの食べにいこ!」
相原の言葉に仕方なさそうに息を吐いて、天は了承と頷いてくれた。夏休み突入記念、スイーツユニオンの活動が始まった。