起きたら頭が痛かった。

 また始まってしまったか。俺はうんざりしそうになったけれど、これは元々彼女の痛みだ。愛する人の痛みが分かり合える。恋人と痛じ合っているなんて、最高の彼氏じゃなかろうか。

 ベッドから起き上がると、今回は下腹部にも痛みを覚えた。鈍い違和感に、内臓がわし掴みにされている感じ。偏頭痛に加えて、今週は偏腹痛も併発してしまったか。

 明日から夏休みだっていうのに、こんな状態でいつもの俺を見せられるんだろうか不安になった。

 食欲が失せる痛みだったけれど、それでも無理して朝飯は平らげた。従兄に心配させたくなかったし、何よりクロのお母さんが折角用意してくれたんだ。有難く頂くに越したことはない。

 エレベーターで降りて、エントランスでクロと別れたら、入れ違いに天が現れた。

 いつもの制服、いつものお下げ。長いまつ毛に、丸い瞳。相変わらず可愛い俺の彼女だけれど、少し青い顔をしているのが心配になった。

「うちに痛み止めあるけど……」

 俺の提案に、天は首を左右に振った。既に服薬済みなんだって。

「それよりも……」

 天はマンションの塀の裏へと、俺を引っ張っていく。まさかと思ったが、そのまさか。彼女は抱き着くように、口づけをした。

 柔らかい感触、うちと違うシャンプーの香り。天の温もりが離れた瞬間、頭痛と腹痛が綺麗さっぱり消え去った。

「これで、大丈夫だね」

 彼女の浮かべた笑みは、どう見たって無理して作ったものだった。

 今更だけれど、やっぱりどっちの痛みも共痛覚によるものだったんだ。自分も辛いっていうのに、無理してでも彼女は俺の方を取り払いに来てくれたんだ。

「ごめん」と言いかけて、「ありがとう」と言い直した。天は首を左右に振った。

「お詫びもお礼も要らない。あたしに出来る事は、これだけだから……」

 彼女はどこか居心地の悪そうな表情をした。俺に対して遠慮をしているのか、それとも本気で悪いのは自分だと思っているのか。

 どっちも真っ向から俺は否定しているんだけれど、前世の記憶がそうさせるのかもしれない。

「それに男の子って、この痛み慣れてないでしょう?」

 確かに俺は偏頭痛にはなった事は無いけれど、女性にしかならないものなんだろうか。よく分からないから、適当な返事で茶を濁した。