俺がこの街に来て、三か月が経過した。地元からはバスに乗って三十分、黄色い電車に乗り換えて一時間くらいの距離。

 同じ東京だし、大差は無いって思っていた。小さな時に何度も来た場所だし、その辺りに従兄との思い出も沢山転がっている。

 新しい中学にも慣れた。女子のみだけれど、友達も出来たし。従兄の友達とも、少しは仲良くなれた気もする。だからこそ、小さな悩みを打ち明けるのに、しり込んじゃうってのもある。

 悩みと言っても、本当に大したもんじゃないんだ。怪我もしてない、持病も無いってのに。毎日、一人の同級生の事で、頭が一杯になってしまうってだけ。たまに腹の下あたりも痛くなるけど、未だにそれはよく分からない。

「おっしい、大丈夫?」

 小さな呟きに右を向くと、隣りの席の相原光が呆れた顔をこちらへ向けていた。

 俺がどんな顔をしていたのかは知らないけれど、きっと締まりのない顔だったに違いない。出来るだけ平気そうな顔をして、彼女に小さく礼を言う。

 相原は意外にも優しい一面がある。って言うと、失礼かもだけれど。相原は、普段から明るくて。大雑把で何も考えてないよって、感じのイメージが強い。

 俺が押立って名前だから「おっしい」って、あだ名を付けたのは彼女だし。たまに自分の兄を、ジャッカスって呼んでたりする。独特のセンスのある友達だ。

 チャイムが鳴ったので、俺は教科書を鞄の中にしまい始める。今日の授業はこれで終了。来週から夏休みだし、教室の連中も少し浮かれている様子だった。

「おっしい、今日は……」

 相原が声を掛けてきたけど、すぐに口を閉じた。俺の後ろに視線を向けていたので、振り向いてみる。天が笑顔で立っていた。

「はい」と天が手を差し出した。意図が分からない俺は、小首を傾げた。

「したかったんでしょ? 放課後デート」

 天は満面の笑みを浮かべた。前までは色とりどりのチューリップみたいに思ってたのに、今はタンポポのような笑みだった。やっぱり俺の彼女は可愛い。とか、思ってしまった。