起きたら、自分の部屋だった。窓から見える空に目を向けてみると、まだ夢の中に居るような感覚に陥る。

 蝉の声、青々とした木々。もしかしたら、梅雨が明けたのかもしれない。夏はもう、俺の傍に近づいて来ている。

 ベッドから起き上がり、俺は両手を天井に向けて大きく伸ばした。

 頭痛無し、倦怠感無し、吐き気ゼロ、腹も空いている。日曜日を無駄にした甲斐もあって、元気は四十二倍。単刀直入に感情注入して、覚醒モードに突入してやるんだ。今日は宇宙、進化させちゃうからな。

 顔を洗いに洗面所に行くと、クロが居た。体調はもう大丈夫なのか。という問いに俺は笑顔で頷いた。

「というか、ごめん。昨日俺の看病で、日曜無駄にさせた」

 俺が少し頭を下げると、その後頭部を従兄は軽くはたいた。

「従弟の看病の、何が無駄なんだよ」

 ごめんと言おうとして、俺は口をつぐんだ。こういう時に口にするのは、そんな言葉じゃない。

「ありがと」

「気にすんな」

 クロの満面の笑みを見て、ぽっかりと空いた心に温かい何かが埋まっていくような感覚になった。

 朝飯は普通に目玉焼きだったけれど、おばさんが俺用にって雑炊を用意してくれていた。

 温めた後にすぐに家を出て行った所を見ると、俺がちゃんと起きるまで待っていてくれたに違いない。申し訳ない気分なのに、どこか嬉しいと思う気持ちがあるのは、悪いことなのかもしれない。

 鳥雑炊は出汁がちゃんと聞いていて、溶き卵もふわふわで最高に美味しかった。焼き鳥、唐揚げ、ローストチキン。俺は割と、鶏肉が好きだ。

 豚も牛も嫌いってわけじゃないけど、カレーは出来ればチキンがいいって位には好きなんだ。もしかしたら、前世は鳥を捕食するモンスターだったのかもしれない。

「いや、お前の前世は魔導士ギルドの……」

 前世の話を出されて、俺はある疑問に気が付いた。

「ね。きのみさんって、前世は鳥なんだよね?」

「ん。鳥っていうか……獣人という。……まぁいいや、うん。前世は鳥で、今世は鳥頭」

 多分、クロなりに色々説明したかったんだろうけれど、病み上がりには酷と思われたのかもしれない。

「きのみさん、鶏肉食えるの?」

「……食えるんだよ、これが」

 クロがひきつった顔をした。どうにも獣人というのは、人間とほどんど食生活が同じらしい。彼女の前世、鳥族のブロッサムだった頃から、鶏肉は食べていたと従兄は言った。

「獣人か……」

「……何か、思い出した?」

 クロが控えめな声で聞いてきたのは、まだこの間の出来事を引きずっているみたいなのだ。俺は気にしてはないって言ったけど、従兄は思った以上にこっちに気を遣うきらいがある。

「……思い出しかけた。んだけど……」

 一昨日、アオさんとコンビニでお茶した時、俺は確かに何かを思い出せそうだった。けれど、熱のせいなのか。その時の記憶が、断片的になっていた。

「いいさ」とクロは苦笑いをした。

「これはオレと上谷戸の問題だ」

 ソラは自分の事だけ考えればいい、とクロは食事を再開した。

 今、クロは魔法を使ったのか、聞いてみたかった。

 だけれど聞かない方がいいかも、って思った。それをすると何となく、従兄が傷ついてしまうんじゃないかって感じたんだ。

 それからちょっとだけ、獣人の話を聞かせて貰った。

 基本的にあの世界では、獣人と人間は結婚出来ないらしい。もっと言うと、鳥族は鳥族、爬虫族は爬虫族と言った感じで、同族以外との結婚も駄目なんだって。

 内密でっていうのもあるらしいけれど、基本的にはあり得ない。我々の世界で例えるなら、同性婚に近いんだとか。だからクロも前世の天と、前世の俺がくっ付いていたのを知らなかったんだって。

 禁じられた関係、最後は悲恋。

 それじゃあ、同性婚ってどうなんだって聞いてみた。人間同士でも、獣人同士でも駄目。その上、異種族で同性なら死刑なんだとか。

 おっかない世界だって思ったけれど、北欧のどっかの国も同性恋愛は死刑って場所があるらしい。こっちも根本的には、あまり変わらないのかもしれない。

 だとしたら今まで俺に告白してきた男、全員死刑にならないだろうか。そうなると、クロに恋してた子供だった時の自分も死刑か。