せっかくの日曜なのに、外は雨が降っていた。どの道、こんな状態で外に出る気なんて起きない。そもそも、ベッドから起きれないんだ。
やはり濡れたせいなのか、それとも昨日色々あったからか。あの後は真っ白な頭で、アオさんに礼を言って別れた。
従兄に色々聞こうと、ダッシュで帰宅したのが悪かった。玄関を開けた瞬間、俺はぶっ倒れてしまった。
気が付いたら、自室のベッドの上に居た。体温計を手にした従兄が言うには、八度五分らしい。何十八度なのか聞いたら、呆れた顔で無視された。
服とCDを返す予定だったけれど、今日は無理だと相原に連絡を入れた。自分のせいだって思わせたくないから、風邪を引いたのは伏せておいた。
横になって天井を見ると、あの時本当に必要だったものが、今でも心の中に残っていた。
天のこと、前世のこと、アオさんのことが頭の中でグルグル回る。廻る世界の一瞬に、俺が溶けていく。終わりと始まりが、繋がりそうなのに消えていく。溶ける鼓動シンクロして、永久に感じるリズム。心に刻まれ続ける、遠くに響くメロディの正体を知りたくて仕方がない。
一人だけ時が止まってしまったような気がして、置いてかれたような感覚に陥っている。足りない旋律、君と奏でた筈の思い出。天と向き合う為には、それが必要な筈なんだ。
俺はベッドから立ち上がり、自室のドアを開ける。寝ている暇なんて、あるわけがない。リビングに居たクロが、慌てて俺に駆け寄った。
「何してんだよ、ソラ!」
「くお!」
上手く舌が回っていない。伝えたい話があるっていうのに、何の役にも立たない口だ。
「寝てろよ、馬鹿!」
クロに自室まで引っ張られ、押し潰されるようにベッドへと寝かされる。
従兄は、まるで重病人を見るような瞳で俺を見た。もしかしたら状態可視とやらで、体調を見ているのかもしれない。って思ったけれど、そんなもの使うまでもないか。
手に温もりを感じた。目を向けると、クロが俺の手を優しく握っていた。なぜかは知らないけれど、情けなくて涙が出てきた。
「辛いか? 救急車、呼ぶか?」
クロのセリフに、俺は首を左右に振った。辛いのは体調なんかじゃない。
「……ブロッサムにも聞いてみたけど、風邪は治せないんだとさ」
治してほしいんじゃない、晴らしたいんだ。天の問題をどうにかしたい思いと、クロの悩みを手助けしたげたい気持ちをだ。
「……ソラ」
薄れいく意識の中で、クロの優しい声が聴こえた。
「お前は……何も、考えなくていいからな」
そうしてクロは俺が寝るまで、ずっと手を握っていてくれた。
今までのことが、記憶と共に通り過ぎていく。その中に君は確かに存在しているのに。思い出そうとする感覚。抽象的になる映像追いかけようとする度、君が霞んでいった。